第3部 聖地探索編
七の鍵〜コバイツスキーの遺言編

ポポフの最期は結構泣きました。

決戦!ベロヤロスク醤油炉…その1

かつての米ソ宇宙開発競争の数々の栄光を飾った壮麗なる博物館。モスクワ宇宙記念博物館。
宇宙醤油兵士サブソニック・ポポフは有人宇宙船ソユーズS0の前にたたずんでいた。ポポフにとって忘れられない船であった。
「棺桶をいつまでも飾っておくとは…我が国ながら大したセンスだ…」

ポポフに近づく男がいた。長い銀髪の軍人ニコライ・レオノフ大佐。軍人というよりは科学者を思わせる風貌。ポポフの旧友である。
「ここを待ち合わせに指定するとは…あてつけのつもりか…同志サブソニック・ポポフ」

「まさか…君には感謝しているんだよ。同志レオノフ。あの日、この船に乗ったからこそ、この亜音速の力が手に入ったのだから…」
きゅっと口の端を吊り上げて笑うポポフ。凶相にレオノフ大佐はたじろぐ。

「……すまない」
「謝る必要は無い。繰り返すが私は感謝している。絶大な感謝だよ。」
「私は…私は…君を推薦すべきではなかった!」
「私でなくても誰かが推薦されたのだろう。結果は同じだ。あの日、君と祖国と運命が私を選んだ。それだけで十分だ」

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1980 年、ソ連軍空軍野戦兵として勤務していたポポフは、ある日、特殊戦局研究所のレオノフに呼び出された。ポポフとレオノフは同じ孤児院出身であった。ポポフはまだ新兵然とした一兵士に過ぎなかったが、レオノフは若くしてモスクワ大学を卒業し、特殊戦局研究所のエース研究員として注目を集めていた。

 レオノフに呼ばれたのはポポフだけではない。やはり同じ孤児院出身のキジム、ソロビヨフ、アチコフも一緒である。みな階級は低いが純粋な使命感に燃える若者たちであった。

レオノフは言う。
「久しぶりだな諸君。さて単刀直入に言おう。君たちにはある実験の被験者になってもらいたい」
「どんな実験でしょう?」
「絶大な力を得るための実験だ。宇宙醤油兵士計画。君たちは醤油という調味料を知っているか?」
「知りません」
「アジアで使われる調味料だ。まず実例を見てもらおうか。ついてきてくれ」
レオノフは肩をすくめてそう言った。

ポポフたちはレオノフの後について研究所の地下に降りていった。
地下の鉄扉を開けると、傍らに鎖につながれた猿がいた。
その猿がしゃべりだした。
「レオノフ中尉。イジョウ ハ アリマセンデシタ。」
「うむ、ご苦労。」

「さっ、猿がしゃべった!?」
驚きのあまり声の裏返るポポフ。猿はふざけて歯茎をむいている。
「これが宇宙醤油効果の片鱗だ。まぁ入りたまえ。」

その地下室は薄暗く、見たこともないような実験機材がひしめき、壁には木桶が並んでいる。
「わがソ連ではあまり知られていないこの醤油だが、不思議な特性がある。一度宇宙空間に置くことで生体に大きい影響を与えることが知られている。我々はこの特性を軍事的に利用することを検討している。まずは見てもらおう」

レオノフ中尉は手にもった宇宙醤油入りの注射器をマウスにつきたてた。数秒もすると、マウスは微妙に震え始め、徐々に大きくなり始めた。震えがやむとズバーッと音がした。明らかに生物が出すような音ではない。するとマウスの体長は見る間に倍にもなり、ありえないほどのジャンプ力で実験室の向こうに跳んでいった。

「い…今のは?」
「これが宇宙醤油効果SSS-effectだ。一定時間無重力空間に置いた宇宙醤油は生物に知力、筋力の大幅な向上をもたらす。この宇宙醤油を用いて最強の兵士を作り出す。それが宇宙醤油兵士計画。君たちには最強の宇宙醤油兵士となってもらいたい!」

「……」
ポポフ達は突然の事態に声も出ない。

決戦!ベロヤロスク醤油炉…その2

あっけにとられるポポフを前にレオノフ中尉はなおも続ける。

「既に敵国アメリカも宇宙醤油を入手し、宇宙醤油兵士計画を進めている。だが、我が国はアメリカに先んじなければならない!宇宙醤油は宇宙空間で飲んでこそ最大の効力を発揮するという!ならば有人宇宙船に兵士を乗せ、強化すれば…!」レオノフ中尉の目は恍惚としている。

「君達は陸上選手の同志ミハイルを知っているか?」
「は、祖国に数多くの金メダルを残した英雄であります。」
「そうだ…彼も宇宙醤油の恩恵にあずかっている…しかし、これは余技に過ぎない。宇宙醤油兵士の主眼はたった1人で一個師団に相当する戦力を有すること…現代戦のルールを変更することだ…」
「……なぜ我々が選ばれたのでしょうか」
「宇宙醤油効果は基本的に増幅だということがわかっている。とすれば若く健康な、そして強い意志を持った君たちこそが適任だ」

レオノフはそうポポフ達を説得したが真実は違った。

 レオノフはポポフ達に重要な事実を隠していた。人間への宇宙醤油効果の発動は極めて不安定で成功率が低いこと。ただし、若い人間の方が若干ではあるが成功率が高いこと。仮に成功しても、過剰な攻撃性が生じる等の副作用により、力を制御するのは困難であること。

 上層部は過去のおびただしい失敗例から宇宙醤油兵士計画に対して懐疑的になっていた。また、アメリカに亡命していたイノリ・コバイツスキーが近日中にソ連に戻る計画が噂されていた。宇宙醤油効果の発見者でもあるコバイツスキーは醤油の軍事利用に対する批判者でもあり、ソ連の宇宙醤油兵士計画は正に風前の灯であった。

 今回の実験はレオノフにとって最後の機会と言えた。レオノフの出した結論は「若い、失敗しても問題とならない複数名の若い兵士を実験の被験者とし、実績を得る」というものであった。ポポフたちはレオノフのモルモットにされたのだ。

 ポポフ達はレオノフの口車に乗り、宇宙醤油兵士になることを選択した。最もそれ以外の選択肢はなかったのだが。 宇宙飛行士としての訓練、無重力空間での醤油の飲み方…訓練期間は瞬く間に過ぎていった。そして秘密裏に進められたソユーズS0号は宇宙へと飛び立った。

無重力空間…眼下に地球を眺めながらポポフ達は醤油ビンで乾杯する。
「祖国と我らの未来のために…」

4人がごくごくと飲み干すとともにかつてない興奮と圧倒的な力が湧いてくる。目が熱い…キジム、ソロビヨフ、アチコフも苦しそうだ…「大丈夫か…みんな…」そこでポポフの意識は途切れた。

次にポポフが見た光景は…凄惨な光景であった…隔壁は歪み、^計器は割れ、あたりは醤油と血の液滴が無数に舞っていた。そしてキジム、ソロビヨフ、アチコフのねじ切れた死体が宙を舞う。そしてポポフの手は血に濡れていた、三人の血である。ポポフ自身も無数の傷を負っていた。
声にならぬ絶叫を上げるポポフ。

「レオノーーーフ!!」
宇宙醤油効果は制御できる力ではなかったのだ。宇宙醤油の絶大な効果によって四人は理性を失い殺しあった。宇宙船が壊れんばかりに。そして宇宙醤油に適性のあったポポフだけが唯一残ったのだ。

ポポフは無重力空間に漂いながら、仲間の死体を見つめつづけ、そして、大気圏に突入し、確保された。
ポポフは宇宙醤油に精神をも蝕まれた。その絶大な力の亡者になりさがったのだった。
狂える宇宙醤油兵士サブソニックポポフの誕生である。

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舞台は再びモスクワ宇宙記念博物館。

「呼んだのはそちらだ。用件を話してもらおうか」ポポフが促す
「君に助力願うのは不本意だが、上層部からの命令だ。私としては従うほか無い」
「上層部?」
「同志ポポフ。書記長からの依頼を通達する。依頼は、ベロヤロスク醤油炉の最奥に取り残された聖杯と第七の鍵の奪還だ」
「聖杯と…!七の鍵!?ソ連に存在しているのか!しかもベロヤロスク?!」
「存在している…だが、過去の実験の失敗で、醤油炉は不可思議なエネルギー場が渦巻き、我々には手が出せない状態になっている。だが第一種宇宙醤油兵士の君ならあるいは…」
「願っても無い!」
「もう一つ、そしてデヴィッド・キッチョーアンが保有する、4の鍵、5の鍵を奪って欲しい。これらの鍵と聖杯の奪還に成功すれば、書記長は脱走の罪を不問とし、君を英雄として迎え入れると仰っている」
「この俺を英雄として…」
「受けてくれるだろうか…同志ポポフ…」
「無論だ!ついに祖国への忠誠を示せるときが来た!同志レオノフ。君にはまた感謝しなければならないな!ククククク…」
ポポフはひとしきり哄笑し、宙を舞い姿を消した。向かうはベロヤロスク醤油炉!

決戦!ベロヤロスク醤油炉…その3

カオリ、デヴィッド、サムヤムの3人はサンクト・ペテルブルグ工科大学の中央図書館にいた。
天井近辺まで本が整然と並び、はるか奥まで本の壁が続いている。本の洞窟といった様相だ。

「さーーむーーいーーーーーーーーーー寒いよ!」
サムヤムが声を張り上げる。南国生まれにはつらい寒さだった。無数の本が体温を奪ってゆくかのようだった。

「ねぇデヴィッド。その情報信用できるの?」
カオリも寒さをこらえながら、不審そうな顔で問い詰める。

「聖杯と鍵のありかを教えるってんでしょ?あやしぃ〜おいらだって怪しいと思うね。罠だよ罠」
凍えながら同意するサムヤム。

デヴィッドが数日前に受け取った謎のファックスには、ここサンクト・ペテルブルグ工科大学中央図書館醤油工学第三書庫へ来るように指示が書いてあった。差出人は不明。

「怪しいが乗ってみる価値はある」
「どーだか」カオリは冷たい。
「まず第一に鍵と聖杯がソ連にあるなんて考えている人間はそうはいない。第二に場所の指定が出来すぎている。ここを知っている人間なんて世界に何人いることか」
デヴィッドは周囲の書庫を見回しながら言った。

「この書庫には、くだらない論文が納められていてね…」
「くだらないの?」
「あぁくだらない。『醤油をたくさん使ったボルシチを食べたロシア人が何センチ飛び上がるか』とかそんな論文だ」
「くっだらない!」
「醤油含有率80%のボルシチを食べたロシア人は30センチ飛び上がったそうだよ。」
「くっだらない!馬鹿じゃないの?」
「ところがくだらないだけじゃない。重要な鍵を握る論文でもある。醤油学の祖、コバイツスキー博士を知っているかな?」
「知らない」
「張り合いが無いなぁ。醤油に携わるものなら知っておくべき偉大な人物だよ。コバイツスキー博士の論文は多岐に渡るが、いくつかの論文の一部が欠落している。しかも極めて重要なデータが抜けている。」
「博士なのにダメだねぇ」
「違う。わざと抜いたんだ。危険なデータを抜いた。抜いたデータを一見関係ない自分の弟子の論文に巧妙に混ぜ込んだと言われている」
「あぁそれが何センチ飛び上がるかの論文なんだ」
「そういうことだ。今まではどうしても許可が下りなくて私も見たことがない…ここまで入れたのは本当に幸運だ…と…この辺だな…」
デヴィッドがメモを片手に学術雑誌を調べていく…
「おかしい…ごく最近抜き取られた形跡がある…」
「誰か持ってったんじゃない?図書館なんだし」
「ここらへんの文献を持っていく人間なんてそうはいないよ。ほら他の本は上に埃が積もっている。」
見ると他の本には1cmは埃が積もっている。

銀髪の軍人が本を読みながら奥から歩いてきた。手に持っているのはソビエト連邦醤油工学協会学術論文誌第113巻!
「お探しの本はこれですか?」
「なぜその論文を…」
「いけませんか?自分の書いた論文を読み直していては?」
「すると貴方が『醤油をたくさん使ったボルシチを食べたロシア人が何センチ飛び上がるか』の作者ニコライ・レオノフ?」
「ずいぶん嫌な紹介の仕方をしてくれますね。素直にコバイツスキー博士最後の弟子と呼んで下さるかと思ったのに」
「怪しい招待状のお礼です。」
「怪しくとも、私の目的は達せられました。ようこそソビエトへ。ミスター・キッチョーアン」

決戦!ベロヤロスク醤油炉…その4


「何この長髪?」
カオリはデヴィッドの影に隠れて、怪訝そうな顔をする。
「コバイツスキー博士最期の弟子にして、珍論文『醤油をたくさん使ったボルシチを食べたロシア人が何センチ飛び上がるか』の作者、ニコライ・レオノフ氏だ」
「珍論文はひどいですね。いかにも私がニコライ・レオノフ。ソビエト醤油工学研究所の上級研究員です。一応、軍属で肩書きは大佐です。」
レオノフは苦笑いを浮かべながら、手を差し出した。

「ソビエトの醤油研究の第一人者があんな論文を書いていたのを知ったときには噴き出しましたよ」
デヴィッドは笑顔で握手に答える
「あれはあれで面白い研究だったんですがね」
苦笑の中にわずかにユーモアが漂っている。ソ連の軍人としては珍しいタイプだろう。

「用件を伺いましょう。レオノフ大佐?」
「せっかちですね。しかし、時間がないのも事実です。用件に入りましょう。」
「どうぞ」
「元醤油特殊部隊隊員アンドレイ・ポポフを殺害ないしは身柄を拘束していただきたい。これは我が国上層部よりの正式な依頼です。」
「ポポフを?なぜ?」
「我々にとってポポフは犯罪者であり、脱走兵であり、国際問題を引き起こす火種です。国内にいるうちに身柄を拘束するのは当然です」
「何故私に?」
「我々はポポフに苦杯をなめさせられ続けてきました。新宿でのポポフと貴方の戦闘を分析した結果、貴方に依頼するしかないとの結論に達しました」
「報酬は?」
「報酬は、コバイツスキーの遺産です。」
コバイツスキーの遺産!それこそは世界各国の醤油研究者達が求める世界の秘奥!
デヴィッドは眉をひそめる。

「遺産が存在するという証拠は?」
「ご存知の通り、私が手に持っているこの本が正にその遺産です。」
「それを我々が実力で奪うと言ったら?」
「遺産の中核を占めるのは実験データです。それらデータはこの論文の中に記載されていますが、全て暗号化されています。そのデコードの方法は…私しか知りません。」
レオノフは落ち着き払って言う。

「…なるほど…しかし、デジタルな暗号化ですね?」
デヴィッドがかすかに笑みを浮かべレオノフに迫る。
「そうです。あなた方にコバイツスキー博士のご子息と世界最強のサイバネティクス醤油コンピュータSHOWYOUがあることは存知あげています。低い確率ですが、ひょっとするとデコードに成功するかもしれない。そこでもう一つ保険をかけました。それが鍵と聖杯の所在です。」
「ソビエト政府が保管しているのではないのですか?」
「それについてはお応えできません。依頼を達成次第お教えします。」
「なるほど。しかし、報酬が過大では?我々に都合が良すぎる」
「我々の任務はポポフの破壊活動を停止することと宇宙醤油兵士のデータを得ることです。残念ですが我々には第一種宇宙醤油兵士を拘束するだけの力はないのです。そして、これは個人的な意見ですが…鍵も聖杯も遺産も我が国には不要のものです。」
「……ポポフの行方はつかんでいるのですね?」
「しかるべき場所と時間を提供する準備はできています。ご協力いただけるなら今から36時間後にモスクワのヤロスラフスキー駅まで来て下さい」
「了解した」
「良い返事をお待ちしておりますよ」
レオノフはきびすを返して暗い本の洞窟の奥へと戻っていった。

レオノフが姿を消すと、サムヤムは嬉しそうにデヴィッドの周りを駆け回る。
「うわー怪しい!怪しいよ!!ポポフを倒しただけで鍵も聖杯も胃散ももらえるなんて怪しいー!」
「サムヤム。君はコバイツスキーの遺産がなんだか知っているのか?」
「知ってるよ。胃がスッキリするやつだろ?胃が弱ったとき良く飲むよ!」
サムヤムの快活な答えを聞いて、デヴィッドはどっと暗い顔をした。

「遺産はともかくなんだか怪しいねぇ。どうすんの?デヴィッド」
「ま、行くしかないだろ。虎穴にいらずんば虎子を得ず。だ」

決戦!ベロヤロスク醤油炉…その5

デヴィッドとレオノフ大佐が問答をした同日同刻、はるか東方、ウラル地方ベロヤロスク醤油炉。
「最後の第一種宇宙醤油兵士」サブソニック・ポポフは活火山の火口のごとく燃え盛る穴の前にいた。

禍々しく黒くねじれた廃墟の中央に直径30メートルはあろうかという大穴が開き、穴の中からは赤く鈍い光が漏れている。立ち込めるのはただただ醤油の匂いのみ。

ポポフは懐から第六の鍵を取り出し耳に押し付ける。鍵は高い音を鳴らし続けている。
「この共鳴…レオノフの言った通りだな!ならば…」
ポポフは迷いも無く、赤く光る穴へと身を投げた。

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翌日、クレムリンの奥、ソビエトの中枢にレオノフはいた。

「同志レオノフ。報告を始めてくれたまえ」
書記長が臨時閣僚会議の開会を宣言する。

レオノフは自分がこのような場に呼ばれていることをひどく場違いに感じた。20年前の自分だったら狂喜することだろう。今となっては幼稚としか思えないかつて抱いた野望を苦々しく思い返した。レオノフが今抱く感情は、諦観と後悔がない交ぜになったもの。喜びからはほど遠い。

「脱走兵アンドレイ・ポポフとキッチョーアン・アメリカCEOデヴィッド・キッチョーアンの抹殺、ならびに遺失した第7の醤油の鍵、聖杯のサルベージ作戦を開始しました」
レオノフは報告の概要を説明したところで一息入れ、閣僚たちを見渡した。ソ連の、世界の命運を左右しかねない男の姿を。

「作戦の全体像をご理解いただくため、背景を説明させていただいてよろしいでしょうか」
「続けたまえ」議長が促す。
「1965年、ウォスホート3号による宇宙醤油兵士実験を嚆矢として、我々は醤油の軍事利用を進めてきました。当初は肉体改造として注目されていましたが、1970年、故コバイツスキー博士がアメリカ・ネバダ核実験場で醤油の核反応抑制を示して以降、対核兵器、エネルギー、破壊兵器としての研究へも波及しております。1980年、故コバイツスキー博士が我が国にもたらした第7の鍵、ならびに聖杯によって数多くの進展が見られました。アメリカに先駆けた多くの研究は我々の輝かしい功績であります」

…「我々の」ではない…全てコバイツスキー博士ただ一人の功績だ…だが、博士は軍事利用に常に反対しておられた…利用してきたのは常に政治家だった…醤油を一度たりとも味わったこともない醤油オンチの政治屋どもめ!レオノフは心の中で毒づく。

「醤油の鍵も聖杯もその正体は、醤油の結晶であります。しかし正確に言えば、X線回折による解析により非晶質構造であることがわかっております。しかしながらその比重は液体状態の醤油の数十倍という、物理的にありえない重さとなっており、これは…」

「同志レオノフ。科学的な見地は本件に関係ない、状況面から報告したまえ」国防相が促す。

「は。申し訳ありませんでした。1986年、醤油結晶に電磁波を与えると、電磁波が増幅される現象が発見され、この現象をエネルギーシステムとして有効利用する理論が提唱されました。これを実証するため、1990年、ベロヤロスク醤油炉が建設されましたが、臨界達成を前にして暴走、制御不能状態に陥りました。被害は死者153名、隣接するRBMK型原子炉ベロヤロスク1、2号炉の破壊があげられますが、最大の損失は全ての醤油結晶、すなわち第7の醤油の鍵と聖杯が醤油炉の最奥に置かれたまま、取り出せなくなってしまったことです。地球上に存在する約半分の純粋醤油結晶が失われてしまった!これは恐るべき損失です。」

「失われたというのがわからん。それほど貴重なものならいかなる犠牲を払ってでも回収すべきだろう?同志レオノフ?」
事情に明るくない老いた産業相が問い詰める。

「軍として回収する努力は十分にした」
国防相が苛立って答える。

「仰るとおりです。数年にわたって、工作機械や通常兵器による醤油結晶の回収、さらには醤油炉の破壊も試みられましたが、成功しておりません。通常工作機械、通常兵器での回収は困難であるとの結論を得ております。回収を困難にしているのは崩壊した炉内の時空の歪と、攻撃的な生命体の存在です」

「その生命体の話だが、何度聞いても現実とは思えない。軍の言い訳にしては幼稚すぎるのでは?」
でっぷりと太った内相が国防相を攻める。

「内相、ご自分で一度行かれてはどうですか?我が軍の人間が何人首をひねられた事か!」
「首?」
「文字通りの意味ですよ。首をこう水平方向に180度、あるいはそれ以上首をひねられている。皆、頚骨骨折で即死です。ポルードニツァ(注・ロシアの妖怪)のせいだという噂まで出てる。それに醤油漬けにされた隊員も多い。これも塩分過多によって苦しんだ上に死亡だ。日本から来た専門家は「沖漬け」と言っていたな。日本でもそういう事象があるのかもしれん。」
「信じられない話ですな」
内相は首を振る。

「内相、数多くの犠牲者が出ているという事実だけをご記憶ください。この生命体は醤油獣と言われる生命体と思われます。液体状態の醤油から構成される生命体であり、物理的な攻撃は意味をなしません。川に石を投げ込むようなものです」
レオノフが解説する。

「そんなものが実在するのか?!醤油は調味料だろう?」
書記長が声を荒げる。

「歴史上3例が確認されております。書記長。そしてポポフはその1体を打ち破る所を目撃したという確かな情報があります。ポポフの戦闘力なら撃破は可能であると信じております。」
「失敗した場合は」
「さらに成功の可能性が高い人間を送り込みます」
「そんな人間がいるのか?」
「ポポフが打ち破るのを見た醤油獣も含め、歴史上3体の醤油獣を打ち破ったのはキッチョーアン・アメリカCEO、デヴィッド・キッチョーアンです。鍵の所在を知れば我々が手を下さなくてもとも醤油獣を打ち破ってくれることでしょう」
「ならば最初からキッチョーアンに鍵と聖杯の所在を教えてやれ!」
「そうは行きません。本作戦の要諦はポポフとキッチョーアンの戦力を削ることにあります。キッチョーアンは醤油獣に強いが、ポポフには弱い。ポポフはキッチョーアンには強いが醤油獣に弱い。醤油獣にポポフを弱体化させ、キッチョーアンにポポフを叩かせる。決着がつけばよし、つかなくとも、ソビエト軍精鋭により周囲を囲い、双方を抹殺する計画です。本作戦によりポポフ、キッチョーアンを抹殺し、第4,5,6,7の鍵と聖杯を我々が入手することができ、安全保障上の優位を確立することができます。」

「不穏因子を使ってのサルベージの上に不穏因子同士の同士討ちというわけか…よろしい。我々の軍事力が保持できる最良の選択だと評価する。同志レオノフ。目覚しい戦果を期待している。」
「ありがとうございます。書記長」
レオノフは無表情のまま深々と一礼をした。

決戦!ベロヤロスク醤油炉…その6

無限の広さを思わせる雪原の中を黒い列車がひた走る。通常のシベリア鉄道ではない。ソビエトの軍用列車だ。

カオリ、デヴィッド、サムヤムとレオノフ大佐はその車両の中にいた。高価な調度品が立ち並ぶその様はとても軍用列車とは思えない。時代がかった曲線で包まれた机をはさんで、レオノフ大佐とカオリ一行は座っていた。

「来ていただけた事に感謝しますよ。ミスターキッチョーアン」
「我々に選択肢はありません。それはさておきコバイツスキー最後の弟子と醤油談義ができるなんて、またとない機会ですしね。」
「それは光栄です」
レオノフは肩をすくめて答える。

「カオリ、サムヤム悪いがちょっと外してもらえないか?ちょっとレオノフ大佐と議論をしたいんだ」
「あぁ、また小難しい話するのね。そんなもん聞きたくないからちょうどいいや。いこ。サムヤム」
「おう、前髪男の話はつまらないからな!」
退屈していたカオリとサムヤムは後部の車両にかけていった。

「全く、勝手なことを言ってくれる。彼らももうちょっと興味をもってくれるといいのだが。」
めずらしくデヴィッドがこぼす。

「はは。こんなことに興味をもつ人間は少ないですからね」
「重要性の割には少なすぎるがな。だがレオノフ大佐、君のように優秀な人間が多いことがこの世界の恐ろしいところだ。まずは君の先取点だ。君の罠にならはまってもいいと思った。」
「罠とは人聞きの悪い」
「レオノフ大佐、そのコバイツスキーの遺産…この国で君しか知らないのでは?」
デヴィッドはレオノフの隣の椅子に置かれた本を指差してそう言った。

「なぜそう思うのです?」
レオノフ大佐の顔色が変わる。
「ソビエトがコバイツスキーの遺産を理解していたら、ベロヤロスクの悲劇は起こらなかったと思うのだよ」
「ベロヤロスクの悲劇…どこまで知ってらっしゃいますか?」
「確かなことは何も。ただ、ソビエトのコバイツスキー派信奉者が減った時期が気になっています。レオノフ大佐。私はあの時期が気になってしかたがない。たしか1990年のことだ。」
「学会の勢力争いに興味がおありで?」
「まさか。とにかく時期が問題だ。その時期にアメリカの軍事衛星がベロヤロスクで不規則な高エネルギー反応を検知している。私はこれは醤油結晶の強制励起による暴走だと見ている。それがベロヤロスクの悲劇の正体なのでは?」
「……」
レオノフは無言でデヴィッドを見つめた。無言の肯定とも取れる態度だった。

「我々が醤油合にあわせて、鍵を集めているのは醤油意識へのアクセスのためだ。コバイツスキー氏の論文では醤油意識の顕在化に際して、莫大なエネルギーが放出されることが示唆されている。ただ、その手法は伏せられている。しかしコバイツスキー氏はその手法を知っていた節がある。またその危険性も。おそらくそれこそが『遺産』の中に書かれている事項だ。醤油エネルギー理論の信奉者たちが失敗したということは彼らが『遺産』を知らなかったか、無視したかのどちらかだ。まぁ、知らなかったのだろう。哀れな話だ」
「…流石ですね…ほぼあなたの想像通りです。ベロヤロスク醤油炉も今では醤油の匂いが立ち込める荒野です。」
「なるほど…すると鍵の一部はベロヤロスクの中に?」
「…鍵と聖杯全てが…です」
「クソッ!馬鹿なことを!醤油結晶を何だと思っているんだ!」
デヴィッドが天を仰ぐ。
「ならばなおさらです。何故、遺産を上層部や研究者に公開しなかったのです?それにそこまで秘密にした情報を何故、私に明かしているのです?」
「はは、まだ明かしてませんよ」
「明かしたも同然です。なぜです?」
「……Mr.キッチョーアン。あなたがポポフを倒すことができたら、理由もお教えしましょう。今はポポフを倒すことに専念してください」
「良いだろう。いずれにせよ私はポポフは倒さねばならない。」
「全てが終われば…話しましょう」

レオノフは立ち上がり、窓のそばまで歩いていった。
「さて、まもなくベロヤロスクへの分岐ポイントです。これ以降は軍の専用路線になります。到着予定は8時間後です。ポポフを打ち倒す準備は今のうちにお願いします。」
「OK!I'll show you!」
デヴィッドはスーツをひるがえして立ち上がった。デヴィッドの腰には金色の醤油瓶が鈍く光っていた。


決戦!ベロヤロスク醤油炉…その7

一方、ベロヤロスク醤油炉内部…

鈍く赤く光る醤油炉内部に轟音が響く。
幾重にも設置された分厚い隔壁をポポフの亜音速醤油が砕いてゆく。醤林寺の修行で、ポポフの力は増大していた。

ポポフは砕いた隔壁をかき分けつつ、慎重に下へと降りていった。第六の鍵の共鳴はどんどん大きくなり、手に振動を感じるほどだ。

「共鳴が強い…聖杯が近いのか…」
ポポフが揺らめく空気の向こうに目を凝らした瞬間、ポポフは何者か頭と肩につかまれた。
とっさに振り向こうとするが、首が回らない。頭と肩を完全に固定されているのだ。

「バカな!」
ポポフは延髄に氷でも差し込まれたような緊張を感じた。
素手で飛行機をも破壊するポポフにしてみれば、信じられない事態だ。

だが、現にその手は巨大な万力のように微動だにしない。しかも、頭に感じるその手は明らかに細い。恐らくは女の手だ。

その手が水平方向に回転を始めた。同時にポポフの頭も回転する。ポポフの目に手の主がかすかに映る。手の主は白い服を着た若い女だった。

「ポルードニツァ!」
ポポフは心の中で叫んだ。

ポルードニツァ…『真昼のひねり屋』とも言われるロシアの妖怪…背の高い白い服を着た女の姿で、人の首をひねると言われている。さしものポポフもあまりの事態に目を丸くするばかりだ。理解出来ない事態。
だが、現実に、ポポフの首は白い服を着た女にひねられ、限界に達しようとしていた。首の関節が悲鳴を上げる。

ポポフは肩と頭を痛めつつも、下方向に体をひねることでかろうじて逃げ出した。
頭皮の一部がこそげて落ちる。
ポポフは女と3メートルほど離れて対峙する。

背が高く、白い服を着た若い女…だが、その目は黒く、何ものも写していなかった。人ならざるもの…ポポフはそう確信した。

「亜音速醤油!」
ともかくも目の前の敵を打ち倒さなければならない。ポポフは亜音速醤油をポルードニツァに打ち込む。だが、亜音速醤油はポルードニツァの体を通り抜けるだけで、ポルードニツァにはなんのダメージも与えられてないのが見て取れた。

「これは…いったい…」
ポポフが戸惑ううちにも、ポルードニツァは再びポポフの頭をつかもうとにじり寄る。

「うおおおおおおおおお!フライングサーカス!」
ポポフが放った無数の亜音速醤油が渦を描くフライングサーカス!醤油炉内の内壁、隔壁、パイプが次々と破壊され、崩れ落ちていく。
ポルードニツァは降りしきる破片に埋もれていく…

「いったい…なんだ…あれは…」
ポポフがそう呟いたとき、再び頭が固定された。いつのまにかポルードニツァはポポフの背後に回ってたのだ。再び逃れようとするも、今度はより深く固定されており逃げ出すことが出来ない。

「ぐっ………」
ポポフの頭は再びひねられ始めた。

人ではない…生物ですらない…己の醤油が触れられもしない…

「醤油獣か!」

 醤林寺で出会った醤油獣『醤虎』!
目の前にいる女はあの醤油獣と同種の存在だ!
ポポフとカオリの攻撃一切を無効にした醤油生命体。

 あの時は憎きデヴィッドがマグロを取り出して倒した。いや、醤油に還したのだ。

−−−あの時…デヴィッドはなんて言っていた…奴は…

「醤油士の業が作り出せし生命体。生を望まれぬ醤油ゆえにいかなる醤油よりも醤油として使われることを欲する…それが醤油獣だ。」


決戦!ベロヤロスク醤油炉…その8

1999年12月24日 エカテリンブルグ時間(第4ソビエト標準時) 20:23
レオノフ大佐に引き連れられたカオリ一行は列車を降り、ベロヤロスク醤油研究所の入り口に立っていた。
零下20度、白く冷たい土地に仄かに醤油の香りが漂っていた。

「さっ…寒い…」
ランニングシャツ一枚のサムヤムがつらそうに声を上げる。

「そんな薄着をしていたら当たり前だ。零下30℃だ。死ぬぞ」
デヴィッドがあきれた調子で言う。

「コート着てても寒いってば!」
分厚いコートを着たカオリが横から声を出す。

「ははは、まだ冬はこれからですよ」
レオノフ大佐はこともなげに言う。

「なななな…なんでこんなところまでこなきゃいけないのよ!ホントにポポフいるの?」
「そ…そうだよ!多分、ハワイとかモルジブにいると思うよ!」
サムヤムは歯の根が合わない。

「います。しかし、いつ地上に戻ってくるかはよくわかりません。」
「どういうこと?」
「ポポフはこのベロヤロスク醤油炉の中にいます。侵入してから約72時間が経過していますが、まだ中に入ったままです」
「72時間って…3日?!死んじゃったんじゃない?」
「オ…オイラも…し…死んじゃったと思うな!」
サムヤムの唇はもう土気色だ。

「その可能性もあります…しかし……」
「カオリ、このベロヤロスク醤油炉の中は時間がゆっくり流れているのだそうだよ。」
レオノフ大佐をさえぎってデヴィッドが説明する。

「何それ?」
「醤油結晶励起による醤油井戸生成に伴う時空歪…ポポフはこの中にある鍵と聖杯を取りに入った。奴なら出てくるときは鍵と聖杯をもって出てくるだろう」
「大体、ポポフ出てきたところでどうするの?出来ればかかわりたくないなぁ。」
「とにかく鍵と聖杯を手に入れる。そのためにここまで来たんだろう?」
「だけど勝ち目ないっぽいもん…あ!そうだ!」
カオリは鞄の中から醤油瓶を取り出した。
『毒醤油』…サムヤムを以外のタイ十六醤油戦士を一気に葬った溜家秘伝の醤油だ。

「これをその醤油炉に投げ込んだら一発じゃない?ゴキブリにバルサン!みたいな」
「カオリまだそんなもん持ってたのかよ!」
土気色の唇のサムヤムがカオリの瓶を奪う。

「こら!返しなさいよ!」
「こんなもん使ったらダメなんだってば!」
言うがはやいかサムヤムはカオリの毒醤油を飲み干してしまった。サムヤムは毒醤油に耐性があるのだった。

「あー!こら!出しなさい!出しなさいよ!」
「いやだいやだいやだー!」
二人の喧嘩が始まった。

「しかし、この二人の言うことはもっともです。どうやってポポフに勝つおつもりで?」
二人のたわいのない喧嘩を見ながら、レオノフはデヴィッドに水を向ける。

「ポポフの物理攻撃力は途方もない。まして、醤林寺の力を得た今は桁違いだ。私にもカオリにもポポフを正面から破る力などないよ。ソビエト軍が歯が立たないのと同じようにね」
「えーじゃあもう帰ろうよ〜」
カオリはもうすっかりやる気がない。

「物理的にダメなら、やつの精神を破壊する他ない。チャンスは一回きり。永劫回帰の醤油”ウロボロス・ソイソース”を見せるとしよう。」
デヴィッドが不適に笑った。


決戦!ベロヤロスク醤油炉…その9

ふとカオリのもつ第四、第五の鍵が甲高い音を奏でる。高い共鳴音が周囲の冷気を鋭く震わす。
「来たか!」
デヴィッドが走り出す。

「ちょっ!ちょっと待って!」
カオリが後追う。レオノフ大佐もそれ続く。

「お、おいていかないで!さ、寒いよ!」
サムヤムの顔色はより一層ひどくなっている。

「ねぇデヴィッド!もしかしてポポフもこっちが近づいていること知っているんじゃないの?」
「その可能性もあるが、身近に聖杯を持っているなら、聖杯との共振が強く、感じ取れないはずだ!だとすればこちらが有利!」
デヴィッドが施設を走り抜けながら叫ぶ。その時、デヴィッドの足元の地面にヒビが入り、隆起した。地面を蹴って回避するデヴィッド。

「ポポフ!」
レオノフ大佐が叫ぶと同時に、地面を割って、ポポフが地上に姿を現した。ポポフの姿は凄惨なものだった。右腕は失われ、全身が血に塗れていた。そして左手には鈍く銀に光る鍵と聖杯が握られている。ポポフがレオノフの姿を見つける。

「レオノフ…来てくれたか!見てくれ!この聖杯と鍵を!我がソビエトに光をもたらす鍵だ!ハッ!ハハハハ!」
ポポフの喜悦の声が吹雪に吸い込まれる。

「ポポフ…腕は…どうしたんだ?」
「醤油獣にくれてやった。安いものだ。」
レオノフ大佐の問いにポポフが答える。

「ポポーフ!」
ポポフの背後に回ったデヴィッドが腰の金色の瓶を投げる。

「キッチョーアンッ!貴様!」
ポポフは振り返りつつ、亜音速醤油で金色の瓶を打ち抜く。
瓶はポポフの頭上で砕け散り、霧状となったウロボロスソイソースがポポフを包み込む。

デヴィッドの最大醤油ウロボロス・ソイソースがポポフを包む。
直立しデヴィッドを見据えたまま動かないポポフ。

「ウロボロス・ソイソース!メイラード反応の永劫回帰にさまようがいい!」
デヴィッドがポポフに背を向ける。

「限界を超えた旨さは歓喜を超え、絶望を生む。歓喜と絶望。生と死。存在と消滅の円環を永遠に巡る…それが我が最大最強の醤油ウロボロス・ソイソースだ…」
デヴィッドは勝利を宣言する。

が、突如としてポポフは動き出し、亜音速醤油を放つ。

「馬鹿なッ…!」
ひるむデヴィッド。亜音速醤油はデヴィッドの頭部をかすめ、デヴィッドの体がはじけ飛ぶ。

「残念だったなキッチョーアン…」
にじり寄るポポフ。

「何故だ?何故ウロボロスソイソースが効かない?!」
さしものデヴィッドも動揺を隠せない。

「俺には…もう感覚が…ない…味覚も、触覚も、痛みすらも…」
「SSS-effectの副作用か?!」
「そうだ…俺は既に死への旅路の半ばにいる。聖杯の力によって動けているに過ぎない…さぁ死出の旅につきあってもらおうか!キッチョーアン!」


七の鍵〜コバイツスキーの遺産…続く