天才醤油少女カオリ
■ストーリー

第3部 聖地探索編
  六の鍵〜醤油円卓の騎士篇

 円卓の騎士よりも馬の印象が強かった覚えがあります。

 
「波乱!ザ・ナイト・オブ・ショウユ・ラウンド・テーブル!…その1」

ロンドンヒースロー空港、第6の鍵を求めイギリスに降り立ったカオリ達一行を迎えたのはむせ返るようなソースの匂いだった。

「なに…この匂い?」
警戒態勢をとるカオリ。

「日本のお好み焼き用ソースのようだな…」
デヴィッドは特に動じた様子は無い。

「おーい!デヴィさん、カオリ!こっちこっちー!」
ざわつく到着ロビーの中、黒髪の少女が無邪気に手を振っていた。彼女こそはカオリの親友にして、キッチョーアン特殊調味料部隊S'Sのソーススペシャリスト、山城いぶき。彼女の手にはソースで黒々と「ようこそイギリスへ!」書かれたの横断幕が握りしめられていた。ソースの匂いの元凶はこの横断幕だったのだ。

「アンタ何考えてんの?!空港でソースまきちらさないでよ!このソースバカ!」
カオリはいぶきに歩みより、くってかかった。

「ひさしぶりだから歓迎してやろうと思うてのう。大サービスじゃ」
「そんなの歓迎になんないわよ!」
「醤油ばっかりのんでいるやつは気が短くてかなわんのぅ」

「うるっさいわねぇ!だいたい、なんでいぶきがこんなとこにいるのよ!学校は?」
「万年無断欠席のあんたに言われたくはないわぁ。修学旅行じゃ!」
「うそ!今年の修学旅行は長崎でしょ?」
「デヴィさんがスポンサーで金出してくれたんで、イギリスになったんじゃ」
「うそ!」
「残念じゃのう、カオリもちゃんと学校にきてれば、これたんじゃがのう」
「うるっさいわねぇ!」
頭に来たカオリはいぶきから垂れ幕を奪うとバッグから醤油ビンを取り出してジャバジャバ降りかけた。横断幕がみるみる黒く染まる。

「あぁっ!何するんじゃ!こん醤油バカ!」
「うるっさいわねぇ!あんたのソース、醤油味にしてあげんたんだから感謝しなさいよ!」

「カオリ…わしとやるつもりじゃねぇ?!」
山城流必倒空手の構えを取るいぶき。先ほどの和やかな雰囲気は微塵もない。

「いくらでもやるわよ!」
飛醤油のフタに手をかけるカオリ。

「二人ともやめろ!」
二人を一喝したデヴィッドは青筋を立てながら腕組みをしている。怒りをかろうじて抑えているといった感じだ。

「いぶき!君は喧嘩をしに来たわけじゃないだろう」
「…はい」
いぶきはしゅんとした声で答える。

「報告!」
「は…はい、バーバラの姉さんの…じゃないシルバーソン隊長の調査によると彼らはイギリス全土に散っとるそうです」
「居場所は?」
「全員はわかりませんでした。ただ、ロンドンで1名を24時間監視下においとります」
デヴィッドはいぶきが差し出した紙束を受け取ると、いぶきに命じた。

「わかった。ここからは私が引き継ぐ、S'Sはバックアップに入ってくれ」」
「はい」

「いくぞカオリ!サムヤム!」
あっけにとられていたサムヤムがデヴィッドの後をついていく

「あっ、待ってよ!」
カオリもデヴィッドの後についていこうとするが、少しいぶきのほうを振り返って問い掛ける。

「どうしたの?いぶきらしくもない…」
「カオリはまだわからんかもしれんけどのぅ。デヴィさんは怖いんじゃ…カオリも気ぃつけぇ…」
「あ…うん…」

カオリはどう答えていいかわからずあいまいな返事をしたまま、デヴィッド達の後を追いかけていった。


 
「波乱!ザ・ナイト・オブ・ショウユ・ラウンド・テーブル!…その2」

一行がついたのはロンドンの繁華街にある、とあるアイリッシュパブだった。
年月を経た重厚な扉がカオリ達を出迎える。

「こんなところに醤油の鍵があるの?」
恐る恐るデヴィッドに聞くカオリ。

「いや鍵はない、だが、鍵のありかを知っている人間がいるのさ」
そう言ってデヴィッドがパブの扉を開けると、殺伐とした空気が流れ出てきた。

パブの奥で、いかつい大男同士がテーブルをはさんで睨み合っている。
片方の男は白い甲冑を着込んでいる。顎鬚を蓄え、肌は褐色に焼けたいかめしい男。
その時代がかった甲冑がパブの重厚な雰囲気と不思議とマッチしていた。

「なにあれ?ヨロイなんか着てるよ?」
カオリがいぶかしげな声を上げるとデヴィッドが答える。
「間違いない。あいつが6の鍵の守護者、醤油円卓の騎士の一人だ」
「騎士?!キャロルが言っていた?!」

甲冑の男と睨み合うもう一人はいかにも町のゴロツキといった風情、二人の間には小男が立ち、睨み合う二人を抑えていた。
そして二人の男の間のテーブルにはなみなみとギネスが注がれたパイントグラスが二つならべられていた。

甲冑の男がごろつきに告げる。
「貴君の数々の暴言、許すわけにはいかん。だが、このグラスを私より早く飲み干せば、大いなる慈悲の心をもって貴君を許そう。」
「うるせぇ。お前こそ負けたらとっととこの店から出てきな!」

小男が二人を抑えつつ、手を上げる。
「レディー・ゴー!」
小男の合図とともに、二人は目の前のギネスを飲み始めた。
最初こそ勢いが良かったごろつきは途中からむせ始め、ついにギネスを噴出し、後ろに昏倒してしまった。

ごろつきの仲間らしきスキンヘッドの男が駆け寄って飛び散ったギネスをなめる。
「…しょっぱい!!…これは…」

「どれ…」
デヴィッドもかけよりギネスをなめる。

「なるほどこれはギネスじゃない…ソイソースだ…」

「てめぇ!イカサマしやがって!」
スキンヘッドが甲冑の男に食ってかかる。

「無礼な!」
甲冑の男はスキンヘッドを拳で殴り飛ばした。スキンヘッドの体は3m先の柱に激突した。前歯の幾本かは吹き飛んでいる。

「ギネスなど…いや、スタウトなど…醤油を模した愚劣な液体に過ぎぬ!貴様も醤油を飲め!」
甲冑の男はスキンヘッドのアゴのつけ根をつかみ、口を開けさせ、醤油を注ぎこんだ。
(※)スタウト…上面発酵による濃色ビールのこと。

「ゲボッグガ…グッガガガゲボ…」
スキンヘッドは口内を醤油で満たされ昏倒した。

「…醤油を…騎士を愚弄するものには穏やかなる死を与えん…」
甲冑の男は昏倒したゴロツキとスキンヘッドの前で十字を切った。

「醤油を誇りにかけるのはいいが、随分ひどいな醤油だな。風味が飛んでしまっている。」
デヴィッドらしい皮肉だ。

「貴様、円卓醤油を愚弄するのか?!」
「愚弄ってわけじゃないが、やはりイギリスではまともな醤油を望めないのかと思ってね。少々残念だ。」
「貴様!」
ガウェインは懐の醤油ビンをデヴィッドに投げつけ叫んだ。

「太陽の騎士、ガウェインの名にかけて、貴様に決闘を申し込む!」


 
「波乱!ザ・ナイト・オブ・ショウユ・ラウンド・テーブル!…その3」

「決闘?」

「そうだ貴君が勝てば、先ほどの無礼を見逃そう。私が勝てば、無礼を詫びてもらおうか」
「いいだろう。勝負の方法は?」
「今の勝負と同じだ。このパイントグラスに注がれた醤油を早く飲み干した方が勝者だ」
「わかった。ではそれをこちらには3つ用意してもらおう。カオリ!サムヤム!君たちもやってみないか?」
「やった!ようやくオイラの出番だ!」
「いいよ、でもすぐ終わらせてよね」

「子供たちは下がっていたまえ。貴君はさらに愚弄を重ねるつもりか?」
ガウェインが鼻白んで言う。

「何、これくらいハンデがあったほうがいいと思ってね。3人同時に飲んで、一人でも負ければそちらの勝ちで良い。こちらが勝てば…そうだな…騎士様に一つ言うことを聞いていただこうか」
「なめられたものだな、よかろう!後悔するなよ!」

デヴィッド、カオリ、サムヤムの前に、なみなみと醤油がそそがれたパイントグラスが並べられた。

「公平を期すために、貴君らに申し上げておく。私は3秒でこの醤油を飲み干すことができる。貴君らは知らぬだろうが、醤油には多量の塩分が含まれている。慣れぬ人間が飲めばたちまち昏倒するだろう。やめるなら今のうちだ。今謝罪すれば、先ほどの暴言許してやろう。」
「うるっさいわねぇ。とっとと終わらせたいんだから、早く始めてよ!こっちは時間ないんだから!」
カオリが余計な挑発をする。

「うむ、口の利き方を教えた方が良さそうだな。始めるぞ!」

小男が再び手を上げ合図をする。
「ゴー!」
言うが早いか、デヴィッド、カオリ、サムヤムの3人は瞬く間にグラスを飲み干した。


「馬鹿な!」
ガウェインは醤油をふきこぼしながら叫んだ。3人が全てを飲み干すのに0.5秒もたっていなかったのだ。

「うーん。まずい。保存が悪いんじゃない?」
「それもあるが、そもそももろみの温度管理がなってないんだね。イギリスの風土による点も多いだろうが…」
飲むなり不満を漏らすデヴィッドとカオリ。サムヤムに至っては
「オイラ、口直しにナンプラーでも飲むよ」
と言って自分のナンプラーをゴクゴク飲み始めた。

「き、君たちはいったい…」

「デヴィッド・キッチョーアン、キッチョーアン・アメリカの総帥と言ったほうがいいかな?さぁ、ガウェイン殿。第6の鍵のありかを教えてもらおうか!騎士の名にかけて!」

「くっ!貴様がキッチョーアンか!謀ったな!」
「人聞きが悪いな、勝負を仕掛けてきたのはそちらだろう。さぁて騎士様は約束も守れぬのかな?」

「貴様ら…鍵を集めているのか?」
「答える必要はないな。さぁ第6の鍵はどこだ?」

「くっ……わかった。第6の鍵は…今この場にはない…」
ガウェインがそこまで言うとパブの入り口に馬が入り込んできた。

ガウェインは馬にまたがり叫ぶ。
「グラストンベリー!鍵の所持者はグラストンベリーにいる!追って来い!キッチョーアン!」
「なるほど、そこに『聖杯』もあるというわけだな」

「!!!!」
騎乗のガウェインは驚愕する。

「貴様、何処まで知っている!」
「さぁてね。守護者の使命を果たせよ!ガウェイン!」

「くっ!貴君はただならぬ敵のようだな!また会おう!さらばだ!」

ガウェインは暗いロンドンの雑踏に蹄の音を響かせ、去っていった。


 

「波乱!ザ・ナイト・オブ・ショウユ・ラウンド・テーブル!…その4」

ロンドンから西に200km離れた田舎町グラストンベリー。
デヴィッド、カオリ、サムヤムの3人は醤油円卓の騎士達がいるというこの街へとバスでに向かい、自転車を借りてグラストンベリー修道院へと向かった。

「まったくもー!なんで自転車なの!?」
カオリは立ちこぎしながら怒りをぶつけた。

「ヘリがチャーターできなかったし、車だと行けないところもありそうなんでね。バイクでもいいけどカオリは乗れないだろう?」
「飛醤油に乗って行くからいいよ!」
「それだとサムヤムが置いてきぼりだ」
「サムヤムなんか置いていっていいってば!」
「カオリひどいよ!」

そうこう言う内に一行はグラストンベリーの修道院に到着した。
年月を経た石の壁がそこかしこに点在している。薄曇の寒さも手伝って、ひどく冷え切った光景に見える。

「ここに…騎士達が?」

修道院と言っても遥か昔に廃墟になっており、観光客がポツポツといるだけで、特に怪しい気配はない。

「こんなときこそ醤油の鍵の出番だろう?鍵の声を聞いてみるといい」

「あ、そっか」
カオリは醤油の鍵をポケットから取り出し、共鳴の声を聞いた。

「あ…かすかに…こっちの方に…」

「かすかに?」
デヴィッドはそれを聞くと声を荒げて、カオリから鍵を奪い取った。
「ちょっと!何すんのよ!」
デヴィッドはカオリの抗議にまるで答えず、鍵を耳に当てて、声を聞いた。

「…たしかに…弱い…やはり失われていたのか…」
デヴィッドが苦々しげにつぶやく。

「いつもこれくらいだよ?すごく近ければもっと鳴るけど…」
「あ…そうだな。さて、連中は向こうのほうにいるみたいだ。ボビーの眠った丘だな。」
「ボビー?」
「グラストンベリー・トールさ。」

デヴィッドが指し示した方向に小高い不思議な丘が見えた。


 

「波乱!ザ・ナイト・オブ・ショウユ・ラウンド・テーブル!…その5」

グラストンベリー・トール…この150mほどの小高い丘こそが、アーサー王が死に至る傷を癒すために渡った伝説の島アヴァロンであるという伝説がある。円錐状の段々畑のような人工の丘で、頂上に聖ミカエル礼拝堂が立っている。

丘のふもとにカオリ達一行を待ち受けている白い鎧の集団があった。
鎧を着た騎士達は十数名もいようか、皆、馬にまたがり、カオリ達を見据えていた。

「あ、いたいた。ヨロイ馬鹿達がいるよー」
カオリがさも面白そうに報告する。

「無礼な!貴君達がキッチョーアンの者どもか!我は危難の醤油樽を埋めし騎士、ガラハッドなり!」
長髪碧眼の騎士が名乗りを上げる。

「また会ったな!キッチョーアン」
ロンドンでカオリ達と醤油一気飲み勝負をして破れたガウェインもいる。

「騎士の皆様にはご機嫌麗しゅう、いかにも私は…」

「どうでもいいから6の鍵頂戴!」
朗々と名乗りをあげようとしたデヴィッドを遮って、カオリはぶしつけな要求をした。
騎士たちの間から失笑が漏れる。

「ハッハッハッハ…礼を失したお嬢さん。醤油の鍵をご存知なのは驚いたが、我々にとっても大事なものでね。何に変えても渡すわけにはいかないのだよ」
ガラハッドがカオリを諭した。

「そんなこと聞いてないわよ!あんたが持っているんでしょう?おじいちゃん!」
カオリが指差した方角に、一人椅子に座った老人がいた。質素なローブを身にまとった老人は意識があるのかも怪しく、カオリの呼びかけに答えなかった。

「何故、王アーサーが鍵を持っていると?!」
驚愕するガラハッド。

「鍵の共鳴があるからね!さぁ鍵を頂戴!」
カオリが誇らしげに第4、第5の鍵を見せびらかす。

「なるほど、貴君達はただならぬ敵のようだな。認めよう!我らが好敵手として!うけてみるか?騎士の決闘を!」

「望むところだ…」
カオリに出番を奪われたデヴィッドがガラハッドの前に進み出た。

「ちょっと!デヴィッド!また決闘なんてやめてよ!」
「何、勝てばいいだろう。その方が話が早そうだ。して、ガラハッド殿。決闘の方法はなんだ?」

「騎士の決闘と言えば馬上槍決闘…と言いたいところだが、我々に有利すぎる。そこで『馬醤油決闘』を貴君に申し込む!」
「馬醤油決闘?!」
驚くデヴィッドにガラハッドが醤油桶を投げつける。戦いはもう避けられない。


 

「波乱!ザ・ナイト・オブ・ショウユ・ラウンド・テーブル!…その6」

ガラハッドとデヴィッドの前に1頭の馬が連れてこられた。

馬の首をなでながらガラハッドは説明する。
「ルールは簡単だ。各々の桶に醤油を注ぎいれ、馬が先に飲んだ方の勝ちとする。舐めるだけではダメだ、一口でも飲み込まねばならない。当然、馬は塩分の多いものは嫌う。この決闘を制したくば、馬の本能に打ち勝たねばならぬのだ。」

「馬鹿じゃない?馬が醤油飲むわけないじゃない!」
カオリが口を出す。

「そうでもない。もっとも以前私がこの決闘を行ったときは実に250時間、10日以上かかったがな」
「喉の渇きが限界を越えて、ようやく飲む…というわけか…」

「やっぱり馬鹿馬鹿しいじゃない」
さしものカオリも呆れた様子だ。

「どうだ。キッチョーアン、怖気づいたか。やめるなら今のうちだぞ。」
「今更引くわけにいかないな。『馬醤油決闘』はじめようじゃないか」

別の騎士が馬を押さえこんでいる間に、両者が樽に醤油を注ぎ込む。
「フフフ。これは発酵に干草を使った特殊な醤油。勝利は私のものだ!」

「小細工に頼るとは騎士の名が廃りますな、ガラハッド殿。」
デヴィッドが皮肉で返す。

「さて両者の準備は整ったようだな。太陽の騎士ガウェインがこの勝負の立会人を勤めさせていただく。両者、騎士の名に恥じぬ戦いを心がけよ」
かつてデヴィッドに破れたガウェインが前に進み出、腕を上げて宣言した。

「馬醤油決闘!始め!」
騎士たちが手を離すと、馬は狂ったようにデヴィッドの桶にかけより、首を突っ込んで醤油を飲み干した!
そしてヒヒィーーーーンと一声いななくと、絶命してしまった。

あまりの展開に呆然とする騎士達。

「人類史上最高の醤油を飲んで逝けるとはなんと幸福な馬か…」
デヴィッドは絶命したばかりの馬の骸を見下ろしてつぶやいた。

「き、貴様!一体何をした!事によってはタダではすまさんぞ!」
ガラハッドが詰め寄る。

「ウロボロスソイソース…単に旨い醤油を出すと言うのは反則とでもいうのかな?騎士殿。」

「しょ…勝者、デヴィッド・キッチョーアン!」
ガウェインがデヴィッドの勝利を宣言した。


 

「波乱!ザ・ナイト・オブ・ショウユ・ラウンド・テーブル!…その7」

「さーて、これで鍵はこっちのモンだね。おじいちゃん鍵頂戴ねー」
カオリはツカツカとアーサー王に近寄った。

「ならん…騎士の誇りを捨てても鍵は守り抜く!」
逆上したガラハッドは馬にまたがり、カオリに襲い掛かる。

「うわっ!」
かろうじて避けたカオリだが派手に転んでしまった。

「円卓の騎士たちよ!騎士の名を捨てるときが来た!鍵を守れ!」
ガラハッドに命じられた騎士たちがデヴィッド、サムヤムに襲い掛かる。

デヴィッドは鮮やかな身のこなしで、サムヤムはライジングサンナンプラーで応戦するも多勢に無勢。

「卑怯な騎士様たちだな…」
デヴィッドが毒づく。

「黙れ黙れ!なんと言われようとも鍵は守り抜く!」
完全に逆上するガラハッド

「そうよ!レディーに手を上げるなんて馬鹿なんじゃない!?」

「黙れ!貴様に我らの何が分かると言うのか!」
騎乗のガラハッドがそう叫んだ、次の瞬間、彼は後方に吹き飛び、落馬していた。
肩を撃ちぬかれたのだ。

「銃とは卑怯な!」
ガウェインが叫ぶ。

「銃ではない。醤油だ…」
あたりにくぐもった声が響く。陰惨な、地獄から響いてくるような声だった。

トールの丘のさらに上、聖ミカエル礼拝堂のてっぺんに黒い人影があった。

「俺の醤油は亜音速!誰にも味わえない…!」
ガーゴイルを思わせる禍々しい黒装束。彼こそ第一種宇宙醤油兵士最後の生き残り、サブソニックポポフ!


 

「波乱!ザ・ナイト・オブ・ショウユ・ラウンド・テーブル!…その8」

「サブソニック…ポポフ…醤王に捕らえられたのでは…!?」
デヴィッドがポポフを見上げてつぶやく。

「捕らえられた?…それどころか…あのジジイは新たな力を与えてくれた…」
聖ミカエル礼拝堂の頂上に立つポポフは不敵にほほえむ。

「貴様!降りてこい!卑怯だぞ!銃を捨てろ!」
ガウェインがポポフにがなり立てる。

「わからぬやつだな…銃では無い…醤油だ…」
「バカな!醤油が宙を飛ぶものか!」
そう叫んだガウェインの口にポポフの醤油が飛び込んだ。

「ゴフッ!」
ガウェインの歯がはじけ飛び、ガウェインもまた落馬する。

「貴様如きに味あわせていい醤油ではないのだ、感謝しな…騎士殿…」
ポポフが禍々しく笑みを浮かべる。

ガウェインは仰向けに倒れたまま、痙攣している。
彼の口腔には血が溜まり、口の端から血の筋が伝っている。

周囲の騎士達がガウェインに駆け寄ったが、彼は助けの手を払いのけ、血を口からあふれさせつつ
「なるほど…確かに塩分を感ずる…だが!これは貴様の醤油ではなく私の血の味かもしれんな!」
と叫び、その場に崩れ落ちた。

「クククク…この期に及んで強がりとは…騎士とは滑稽な生き物だな!」

「貴様!騎士の誇りを汚すか!」
逆上したガラハッドは渾身の力を込めて、手元の醤油瓶をポポフに投げつけるが、塔の上のポポフには届かない。

「貴様らと遊んでいる暇は無い。秘技!ソイソースストーム!」
ポポフが両手を天にかかげると、天を茶色い雲が覆い、塔を中心に突風が吹き荒れた。
ポツポツと降ってきた醤油は次の瞬間には礫のような固まりとなり、丘の周囲に打ちつけられた。
突然の勢いに、醤油円卓の騎士たちもその動きを止める。
「これは…醤油の嵐か!?」

「なんだこれは!いつの間にポポフがこんな醤油力を!」
デヴィッドが叫ぶ。嵐は付近一帯に及び、大地をみるみる醤油で濡らす。かつて醤林寺で見せたフライング・サーカスとは比較にならない規模だ。

「このままじゃ、みんなやられちゃう!何とかしなきゃ!」
カオリが碑醤油で風よけを造り、デヴィッドとサムヤムは避難するが、騎士達は嵐に立ちすくんだままだ。

「おかしい…」
デヴィッドが腑に落ちない顔でつぶやく。

「あいつはいつもおかしいわよ!何この醤油の嵐って!意味無いよ!バカみたい!」

「元々、醤林寺は世界の安定させるための組織だ…強すぎる醤油力の持ち主や邪悪な目的を持つ醤油士は外に出ることを許されない。だからポポフが外に出れるわけは無いのだ。だが現にやつは醤王に力を与えられた上で、外に出てきている…これは…?」
「何ぶつぶつ言ってんの!どうせあいつが勝手に出てきただけでしょ。落ち着きが無いヤツなんだし。そんなことより早くあいつをなんとかしてよ!」


そうこうするうちに騎士がポポフに立ち向かって行く。

「聞けい!黒衣の男よ!醤油はあくまでも調味料!宙を飛び、嵐を呼ぶとは、外道の業なり!黒衣の男よ!目を覚ませ!」
 ガラハッドはポポフに叫ぶ。

「くだらん問答をしている暇はない…時間がないのだ…」
ポポフはそう呟くと、塔の上から滑空し、醤油騎士達の盟主アーサーに襲いかかった。
あっけにとられている騎士とデヴィッド、カオリ達の前で速やかに鍵を奪うと、自らの醤油に乗って東の空へと去っていった。

「クハハハ!鍵はいただいた!追ってこいよキッチョーアン!俺が聖地を踏む!」

ごくわずかな瞬間の出来事。
騎士とカオリ達は出し抜かれてしまったのだ。


 

「波乱!ザ・ナイト・オブ・ショウユ・ラウンド・テーブル!…その9」

「えー!そんなのありなの!!!!」
カオリは憤懣やるかたない様子で、飛醤油を打ち放つが、全速力で去っていったポポフにはもう届きようがない。
飛醤油が空を切る音もむなしい。

騎士達は呆然と空を見上げている。想像を絶するポポフの醤油に気を抜かれていた。

「さてと…我々は対立する理由を失ってしまったようだが…」
ポポフから鍵を取り戻すことが不可能だと判断したデヴィッドは騎士達に向き直り、そう語った。
が、騎士達はまだ呆然としている。

「カオリ、サムヤム。すまないが先にバスの停留所に戻っていてくれないか。」
「えーこれからどうするの?」
「もちろんポポフを追う。それと第7の鍵もな。とにかく戻っていてくれ」
「じゃあ、デヴィッドも一緒に行こうよ」
「いや、ちょっとこの騎士達にお話があってね。」
「ふーん、よくわからないけど、とっとと来てよね。待つの嫌だから」
「あぁすぐ終わる」

カオリとサムヤムが自転車で去っていくのを確認すると、デヴィッドは騎士達に問いかけ始めた。

「さてと…やはり既に聖杯は失われていたんだな?騎士殿?」
「貴様!何を言う!」
呆然としていたガラハッドが正気を取り戻し叫ぶ。

「我々が目指している醤油の聖地…聖地への道を開くためには醤油の鍵だけでは足らぬ!鍵と聖杯がそろっていてこそ、聖地への道が開かれる!」
「………」
それこそは騎士達の秘奥中の秘奥。騎士達は沈黙するほか無かった。

「そもそも、醤油の聖地とは何か!巨大な醤油意識の眠る土地に他ならない!その醤油意識を目覚めさせることこそ醤油合の意味!醤油意識を目覚めさせるためには臨界量の醤油結晶が必要!だが醤油結晶は地球上にわずか!結晶でできた聖杯と鍵がその全て!」
「…それを知っているとは…貴様…生かしてはおけんな…」
満身創痍のガラハッドがデヴィッドににじりよる。

「フフフ…死ぬのは君たちではないかな?何しろ聖杯を守護する責務を全うできなかったのだからな…!」
「な…何を世迷いごとを!!」
「聖杯はこのグラストンベリーに眠っているとされている…それを護るのが君たちの勤めだ」
「…なぜそこまで知っている…」
「私を誰だと思っている?世界最大の醤油メーカーの力を侮ってもらっては困るな…1972年イノリ・コバイツスキー博士がこの地で聖杯を見いだした…彼がどうやって見いだし、手に入れたのかは私にもわからない。だが、確かにこの地から失われたのだ。それは醤油結晶の共振が無くなったことからも明らかだ…いかがですかな?アーサー王?」

「本当なのですか!王よ!」
ガラハッドは驚愕の表情で王を振り返る。今まで口を開かなかったアーサー王が震える声で語り始めた。
「そうだ…あの日確かに我が鍵の共振が止まった…だが、わしはそれは聖杯の力が失せたせいかと…考えた…このことは私が墓場まで持っていくつもりだったが…」
「失せたのではない。奪われたのですよ。アーサー王。あなたは騎士達の王でありながら、保身で自らをも欺いた…臆病者だ!」

「貴様!我らをなぶるか!我らの忍耐にも限界があるぞ!」
ガラハッドが吠える。

「勘違いしているようだな?私も君たちには頭に来ているのだよ!護る立場にありながら聖杯を失ったその非力、自らの欺瞞に屈するその惰弱!そして今まさに鍵を奪われた凡愚!せめて恥じて死ね!」
デヴィッドの目には冷ややかな軽蔑の炎が宿っていた。

「貴様ーーーーーーー!」
騎士達が醤油瓶を振りかざし、デヴィッドに襲いかかる。

「臆病者は夢の中で果てろ!!ウロボロス・ソイソース!」
デヴィッドが腰の金の醤油瓶の蓋を開けたその瞬間、周囲にむせかえるような醤油の芳香が立ちこめる。

生か。死か。
騎士達の意識は超絶の醤油の芳香に触れ、生死の境を彷徨う。
騎士達が目覚めることは二度と無いだろう。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
草原の中のバス停でデヴィッドを待つカオリとサムヤムの二人

「デヴィッド、大丈夫かなぁ」
「うーん、なんか怖い顔していたね」
「デヴィッドたまにそういうことあるのよねぇ。なんだかわかんないけど。」
二人ともいつもとは違うデヴィッドを心配していた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「醤王が誰かしら刺客を放ってくると思ったが、まさかポポフとはな…なかなか理にかなっている…
 ククク…だが、誰が来ようと…後少し…後少しで…全ての鍵と聖杯が揃う…!醤油合を起こすのは私だ! 究極の!絶対の醤油を我が手に!醤油時代の幕開けだ!」

デヴィッドは一人東の空を見て、拳を握りしめた。
グラストンベリーの丘は血のように赤い夕日で満たされていた。


波乱!ザ・ナイト・オブ・ショウユ・ラウンド・テーブル(完)

 

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