天才醤油少女カオリ
■ストーリー

第3部 聖地探索編
  五の鍵〜醤油マフィア・キャロル篇

 キャロル大暴れでしたが、結局マフィア関係なかったですね。

 
「沸騰!醤油マフィアの甘い罠!…その1」

南米チリの小都市カラマのカフェ…甲高いスペイン語の喧騒の中、カオリとサムヤムはもめていた。

「アンタさえついてこなかったら…ねぇ」
カオリはうなだれてつぶやく。

「前髪男が約束破ったのが悪いんだよ。」
サムヤムは悪びれずに答える。

カフェのテレビはサンディアゴ空港の飛行機事故を繰り返し報道している。
二人ともスペイン語はわからないが、画面に写っているのは見慣れたタマビシオ・ワン。

そして、事故を起こしたのは他ならぬこの二人だった。

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今から2日前、タマビシオワンは南太平洋上空を飛んでいた。
第5の鍵が眠るチリ北部の街チュキカマタへ向かうためだ。

チリがどこだかも分からないながらも、一生懸命地図眺めてチュキカマタを探すカオリ。

デヴィッドが見かねて横から口を出す。

「青森のロードマップを見たってチリは見つからないぞ。ねぶたでも見に行くつもりか」
デヴィッドは呆れた声でカオリをたしなめると、青森のロードマップを取り上げ、世界地図を差し出した。

「チリは南米のこの細長い国だ。チュキカマタはこのあたり」
「ふーん」
「まずはサンディアゴ空港に着陸し、そこから飛行機を乗り継いで、チュキカマタに向かう。チュキカマタには世界最大の露天掘り銅山がある。チリの経済はこういった…」
デヴィッドはいろいろと説明をするが、カオリはもう飽きて手元の醤油辞典を読んでいる。

「坑道を掘る採掘に比べ、露天掘りというのはコストが安く…」
採掘論を延々と続けるデヴィッドの声を遮って、タマビシオワンに警告音が鳴り響いた。

「どうした?」
「侵入者です。警備員が捕捉中です!」
デヴィッドは緊迫した声で秘書の報告を聞く。

「なになに!?」
なんだかわくわくするカオリ。

「わずかでも被害があれば、報告しろ。ポポフなら…私が出る。」
デヴィッドは緊張した面持ちで、指示を出す。ポポフの襲来ともなれば搭乗員全員の命に関わる。

数分後、屈強な警備員が侵入者をつれて入ってきた。猫のように首をぶら下げられている少年はサムヤムだった。

「君か…」
拍子抜けしたデヴィッドは呆れてつぶやいた。

「連れて行くって約束しただろ!前髪男!」
「ダメだ。君を連れて行く余裕はない」
「この嘘つき!」
サムヤムは肘撃ちで警備員を振りほどくとコックピットの方に逃げていった。

「待て!」
デヴィッドとカオリがそれを追う。

「おとなしくタイにいればいいものを…」
「約束しただろ!この嘘つき!」
コックピットにおいつめられたサムヤムは、がなりたてる。

「わかった。とりあえずサンディアゴまでは…」
「しょっぱい奴だな!そんなのダメだ!ちゃんと聖地まで連れてけ!さもないと、こうだぞ!」
サムヤムはやけになって陽昇魚醤(ライジングサンナンプラー)のフタをあけようとする

「待て!サムヤム君!」
「なにやってんの!サムヤム!」
いきなり乗り込んできたカオリは、サムヤムの樽めがけ飛醤油を繰り出す。

「馬鹿!…うわっ」
デヴィッドの制止も間に合わず、飛醤油は、サムヤムの樽を貫き、コックピットのコントロールパネルや窓ガラスを割った。
コックピット内に飛び散る飛醤油と陽昇魚醤。コックピットは閃光と破壊音に包まれた!
閃光はパイロットの視界を奪い、機体の安定を大きく失わせる。

「まずい!」
デヴィッドはパイロットから操縦桿を奪い、機体を立てなおそうとするが、コントロールパネルも破損、窓ガラスにもヒビがいっている状態ではさしものデヴィッドも手に余る。

「ランディングギアが出ない…くそっ!やるか…!」
デヴィッドは冷や汗をかきながらも、タマビシオ・ワンをサンディアゴ空港に胴体着陸させた。かろうじて危機を脱した一行。
だが、デヴィッドは事故機の操縦者、責任者として、当局に連行されてしまった。

そんな中、ばつの悪いカオリとサムヤムはこっそりと抜け出して、一足先にチュキカマタの近くの町、カラマに来たのだった。

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「はぁ。大体、ここのどこに鍵があるのか…」
カオリはサムヤム達から奪った第4の鍵をふらふらと揺らしながらひとりごちた。
近くに鍵があれば共鳴するはずの第3の鍵はチリに来て以来、うんともすんとも言わなかった。

それどころか、醤油すら見かけない。カオリはサムヤムをにらみつけて、「本当にこんなところに鍵あるの?」とサムヤムを責める。

「何だよータナーパットさんが嘘ついたっていうのかよー」
不満そうにサムヤムは言う。

「…って言っても他に手がかり無いしねぇ。はぁ。」
カオリはため息をつぶやいて、目の前のエンパナーダフリータ(油で揚げたミートパイ。チリの名物料理)に自分の醤油をかけた。
その瞬間、ざわついていたカフェの空気が凍りついた。わずかの沈黙の後、カフェの人々はカオリを指差し叫んだ。

「な…何?」
身の危険を感じるカオリ。そこにチリの警察官が入ってきた。
警察官はスペイン語でカオリとサムヤムに何事かをまくし立てた。

「何言ってるかわかんないってばよ!」
叫ぶサムヤムの口をおさえ、警官はサムヤムとカオリに手錠をかけ、英語でゆっくりとこう言った。
「不法醤油所持の現行犯で君たちを逮捕する」


 
「沸騰!醤油マフィアの甘い罠!…その2」

「さいっっっつてぃーーーーーーーっ!」
カラマの警察署の留置所でカオリは毒づいた。もう6時間も留置所に閉じ込められっぱなしだ。

留置所は6畳ほどの広さで、窓も無く薄暗い。一つの重厚な金属製のドアがあるだけだ。
飛醤油で打ち抜けなくも無いが、流石に銃を持った警官とやりあうのは分が悪い。

「だいたいアンタが…」とぶつぶつ文句を言いつづけるカオリの傍らで、サムヤムは突っ伏して昼寝をしている。カオリの文句を聞き飽きたようだ。

「あーあ、さっきのフリータ食べておけばよかったなぁ」
カオリはあきらめ気味で仰向けに寝転がる。
「おなかすいたァ」

ふと、留置所の外から歌声が響いてきた。

No habia podido olvidarte,paloma del alma mia〜♪

その歌声とカオリのポケットに入っている鍵が共鳴しだした。

「これは…?」

歌声が留置所に近づきいてくる。
それとともに、共鳴が大きくなる。

そして、歌声が扉の前まで来たとき、重い扉が開いた。
そこに女が立っていた。妖艶な空気をまとい、ラテンの香りをただよわせる長身の女。

「あなたが…タマリ・カオリね?」
見れば、女性の後ろには偉そうな警察官が立っている。警官は女の下僕のように重い扉を閉めた。

「あなたは?」
カオリは戦闘態勢に入りつつ、様子をうかがう。

「キャロル…キャロル・アリスペ・ロドリゲス」
そう名乗った女性は癖のある長い黒髪をかきあげた。しぐさ一つ一つに華やいだ雰囲気がある。

「ロドリゲス…」
「キャロルでいいわよ」
キャロルは不機嫌そうに訂正する。ロドリゲスと呼ばれるのはあまり好きではないようだ。

「…あなた何者?なんで私たちは逮捕されたの?鍵はどこ?」
カオリはまくし立てる

「質問は一つづつにしなよ。わかってるでしょうけど、私は第5の鍵を持つ醤油士。」
そういいながらキャロルは懐から醤油ビンを取り出した。
赤いラベルに何かスペイン語が書いてある。

「貴方たちが捕まったのは…この街で醤油を使ったからさ」
「どうして?」
「ここでは醤油は非合法なのさ。私たちの大事な資金源だからねぇ」

「そして、第5の鍵はここに」
キャロルが第5の鍵を取り出すその瞬間をカオリは見逃さなかった。

飛醤油が弧を描き、キャロルの腕を襲う。だが、飛醤油が命中したのはキャロルの醤油瓶。醤油が床に飛び散る。

「はずした!」
カオリが第ニ撃を放とうとする瞬間、信じられないことが起きた!
キャロルの足元で、床に散らばった醤油がもぞもぞと空中に漂いはじめた。

「ふふ…貴方の醤油も奪ってあげる…」

「これは…?」
カオリが警戒する間にも、キャロルの醤油の動きは小刻みになっていく。そして、ふとその動きが止まったかと思うと、醤油は弧を描いてカオリにめがけて飛んだ!
醤油はカオリの頭部を直撃する。
「痛ッ!」
たまらず派手に転倒するカオリ。

「ふふ…これがクリオージョ醤油術コピー醤油…!」
いかなる醤油も我が物とする恐るべきキャロルの醤油術!

カオリは大丈夫なのか?


 
「沸騰!醤油マフィアの甘い罠!…その3」

「痛っぁ〜」
キャロルの繰り出した飛醤油で転倒したカオリは、頭を押さえながら起き上がる。

「ふふふ。危ないねぇ。」
キャロルは悠然として微笑む。

「い…今のは?」
「クリオージョ醤油術コピー醤油…あなたの飛ぶ醤油をコピーしたのさ…」
「……そんな!!」
カオリは驚きのあまり目を白黒させている。

「さて、私も醤油の鍵を集めている。あなた達が持っている鍵をよこしてもらおうか。」
冷徹に詰めよるキャロル

「いやよ!」
「ふふふ。そういうと思った。これをごらん」

キャロルは一枚の写真を取り出し、カオリの前に投げ出した。
写真に写っていたのはかつてカオリが背布由寺でいっしょに修行をした東テツヤの姿だった。
十字架に縛り付けられ、明らかに暴行を受けたあともある。

「これは…誰?」
しかし、誰のことだか思い出せないカオリ。

「ふふふ。無関係を装ってもダメよ。貴方の恋人は私のアジトにいる。助けたければ鍵を持ってチュキカマタ銅山に来な。」

「卑怯よ!無関係な人を!」
「私もこういうやり方は好きじゃない…だが、今はそうも言っていられないんだ…」
キャロルの表情に淋しげなものがふとよぎる。キャロルは気を取り直したかのように、腰に下げていた醤油ビンの蓋を開け、中身を鉄の扉にぶちまけた。鉄の扉はみるみる溶け、ぽっかりと穴があいた。

「なんだよこれ!?」
サムヤムが驚きの声をあげる。

「クリージョ醤油術サルサ・デ・マイス。私の醤油は鋼をも溶かす」

「とにかくおとなしく鍵を受け渡してくれ。それが私の願いだ。」
そういうとキャロルは鉄扉の穴を潜り抜け、廊下に出た。

「いい返事を待ってるよ。カオリ。」

Crei ser tu amor perdido cuando no estabas conmigo.
Viditay, paloma del alma mia♪

キャロルは歌いながら長い廊下を去っていった。


 
「沸騰!醤油マフィアの甘い罠!…その4」

一方、デヴィッドはアメリカ政府経由の外交ルートに手を回すなどして、かなり強引にチリ当局の取調べから逃れた。カオリを身柄を解放すべく、カマラ警察署に乗り込むデヴィッド。

その入り口でデヴィッドはキャロルと出会う。

「ずいぶん派手な入国だったわね…デヴィッド」
旧知なのか、デヴィッドになれなれしく話し掛けるキャロル

「君か、キャロル…醤油で人を支配するとは…相変わらずだな」

「貴方に言われたくないねぇ」

「オールゼロはどうした?」

「久しぶりに会うなり、それかい…相変わらずの冷血漢だねぇ。もう尽きたよ」

「だから聖地か…」

「そうさ!パロミータのためなら私は悪魔にもなる!鍵を奪いたければ力ずくで奪いな!」

そのとき、警察所内から強烈な醤油の匂いが漂ってきた。
「これは…!」
「ちょっとした置き土産さ…追って来なよ!デヴィッド!」
そう言い残すとキャロルは待たせていたパトカーに乗り、去っていった。

「キャロルめ、味なことを…」
デヴィッドは警察署の暗がりを睨みつけると、きびすを返して雑踏に消えた。

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一方、カオリとサムヤムは牢獄から抜け出したが、辺り立ち込める息苦しいほどに香ばしい香りに戸惑っていた。

そこかしこに見張りをしていた警官が倒れている。

「これは…牛肉・ザ・マグナム!」
かつて嗅いだことのある匂いにカオリは愕然とする。

「なんだそれ?」

醤林寺でデヴィッドが使った牛肉・ザ・マグナム!
それは熱した牛肉に醤油をたらし、とてつもなく香ばしい香りを発するデヴィッドの恐るべき必殺技!その香ばしさは凄まじく、10km離れた場所の人によだれを出させ、あらゆる魂をとろかすと言う!

「デヴィッド!?来てるの!?」
カオリはとっさに口を押さえるが、サムヤムは思いっきり匂いを吸ってしまい、陶然とし始めている。

「うひょーいい匂いだぁ」

目の前には長い廊下が続く。窓には暴動対策の鉄格子が張られており、開けることはできない。
呼吸を止めたまま、この廊下を渡りきることは不可能だ。

このままではカオリも牛肉・ザ・マグナムの香気にやられてしまう。

「うひょーぉーぉー」
既にサムヤムは前後不覚だ。

「デヴィッド…?」
デヴィッドはタマビシオ・ワンを墜落させかかったことを怒っているのだろうか?

「ひどいよ…デヴィッド…」
香気により薄れゆく意識の中でつぶやいた。

その時、窓ガラスを、いや鉄格子、壁、窓ガラスもろとも突き破って何かが飛び込んできた。
大きく開いた穴から風が吹き込み、香気を吹き飛ばす。

あたりに立ち込める白煙。飛び込んできたのは巨大な桶だった。
穴の向こうには仮面の男が立っていた。

「フフフ。カオリ君。醤油の鍵は順調に集まっているかな?」

その仮面の男の名は二段仕込み仮面!


 
「沸騰!醤油マフィアの甘い罠!…その5」

 窮地を二段仕込み仮面に助けられたカオリとサムヤムは彼の運転するバギーに乗り、チュキカマタ鉱山に向かっていた。 バギーは軽量シャーシのオリジナル・バギー「ヒシオ・ドランカーRR」
醤油色のボディが南米の青い空と白い太陽に映える。

「…私が聞いたところによると、キャロルはどんな醤油もコピー醤油で自分のものにすることができる…つまり、彼女はそのデヴィッド・キッチョーアンとやらの醤油もコピーしたんだろう」
慣れた手つきでバギーを運転しながら、二段仕込み仮面はキャロルについて説明する。

「私の飛醤油も…」
「そうだ。コピーされた」
「そんなのインチキだよ!」
「そうだ…だが、恐るべき技であることには間違いない…」
「そんなインチキに勝てっこないよ!」
「そうでもない…現に彼女は鍵を奪う絶好のチャンスを見逃して、一旦引いた。これは不自然だ。」
「そう?」
「あの場で、君の持つ鍵を奪ってしまえばそれで片がつく…だが彼女はそうしなかった…なにかの罠があるのだろうな…」
「ふーん」
「どうでもいいけどなんで、オイラだけ椅子が無いんだよ!」
サムヤムが後ろの荷物置き場から、叫ぶ。
「仕方ないだろう。このバギーは二人乗りだ。それよりしゃべるな。舌を噛むぞ」

「カオリー代わってよー」
「やだよ!」
「そんなーアウッ!」
サムヤムは舌を噛んでおとなしくなった。

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やがて、一行を乗せたバギーは寂れた街に入る。
「ついたぞ。ここが鉱山の町チュキカマタだ。」

工業関係の建物が点点と建っているが、街には活気が感じられない。
周囲を見れば、薄汚れた無気力な男たちが横たわっている。男たちは芋虫のように手足をゆっくりと動かし、手にもった小さなビンをしきりになめている。正気を失っているのは明らかだった。

「これは…」
「キャロルの仕業さ…」
「?」
「キャロルは中毒性の高い美味な醤油をマフィアを通じて売りさばき、多くの廃人を生んだ…ここでは醤油は麻薬と同義だ。」
「そんな…」

横たわる男たちは、既に醤油の味がしなくなったただのビンを唾液まみれにしつづけている。
「ひどい…」
「醤油で人を支配する…それがキャロルのやりかただ…」

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一行は町を通り過ぎるとチュキカマタ鉱山に入った。
世界最大級の露天掘り鉱山。チュキカマタ。そこは直径3kmにも及ぶ巨大なアリ地獄。周囲には高さ2mにも達する巨大なタイヤをはいたダンプが往来し、見たことも無いような巨大な重機が立ち並ぶ。なにもかも巨大で、自分が小人に思える不思議な空間だった。

「ここに…キャロルはいるの?」
「間違いない。醤油を感じてみたまえ」

醤油知覚!一般人の貴方でもはじめての食堂でどこに醤油があるか直感的にわかると感じたことは無いだろうか。あらゆる生物には醤油がどこにあるか認識する能力がある!この超自然的な感覚を専門用語で醤油知覚と呼称する。一流の醤油士ともなれば、どこにどれくらいの醤油があるか正確にわかるのだ!

「これは…!」
「すげぇ…!!まるで…醤油工場だ!」
カオリとサムヤムは周囲の醤油の量に驚く。
この何キロにも及ぶ鉱山の地下のそこかしこに何トンもの醤油が点在しているのだ。

「でもどこに?」
「おそらく地下だ。あの横坑をみたまえ。」

二段仕込み仮面の指差す先に、坑道の入り口が見える。
「これはあるはずのない穴なのさ。あからさまに怪しい」
「へ?」
「通常、露天掘りでは坑道は掘らない。まぁアジトにはもってこいだろうが。」
「よし、いくぜ!鍵はオイラのモンだ!」
勇んで坑内に駆け込むサムヤム。

「あっ!待て!」「ギャーーー」
二段仕込み仮面が静止する間もなく、サムヤムは入り口に仕掛けられた落とし穴に落ちてしまった。

「サムヤーム!」
カオリはサムヤムが落ちた穴に呼びかけるが、呼び声が反響するばかりで、返事はない。

「大丈夫かなぁ」
「大丈夫だろう。まぁ、ダメだったらそのときはそのときだ」
二段仕込み仮面は非情にいい放つ。

「それもそうね。先に行ってましょうか」
元から薄情なカオリもあっさりとサムヤムを見捨てることにした。
サムヤムの運命は?


 
「沸騰!醤油マフィアの甘い罠!…その6」

穴に落ちたサムヤムをほったらかして、坑道の奥に進むカオリと二段仕込み仮面。
やがて二人は開けた空間に出た。

タンクがひしめき、縦横無尽にパイプが張り巡らされた浄水場のようなそのシステムはまぎれもなく醤油プラント。キッチョーアンアメリカにあった醤油プラントとよく似たものだった。
「相当溜め込んでいるな…」
二人の眼下に広がるプールには醤油が満たされている。

「なんでこんなに?」
「素直に醤油屋をはじめるつもりでは…ないようだな」

その時、暗がりから歌声が聞こえてきた。
Se hace poco prometiste que nunca me olvidarias♪

「ふふふ、お早いお着きだねぇ」
階段を悠然と降りてくるキャロル。

「ようこそ!醤油要塞パロマへ!」
キャロルが指差した先にスポットライトが点る。そこにはカオリのかつての修行仲間テツヤがロープでぐるぐる巻きにされ、天井からぶら下げられていた。テツヤの真下には毒々しい色の醤油がはられている。その醤油は強酸性の溶解醤油サルサ・デ・マイス!

テツヤはカオリらを見つけると情けない声を上げる。
「カオリじゃないか。助けてくれよ〜」
「何よあんた。人の名前なんで知ってるのよ」
テツヤのことを忘れているカオリはいらだって返答する。

「そんな。僕だよ。テツヤだよ。一緒に修行した…僕も鍵を探そうと…カオリのために…」
「何勝手なこと言ってるのよ!」
その後も知ってる知らないの押し問答が続く。

「健気な演技だねぇ。カオリ。さぁて、鍵を渡してもらおうか。素直に渡さないと、その男の命はないよ!」
キャロルは冷酷に宣告する。

「無関係の人まで巻き込んでまで鍵が欲しいの!!」
カオリはキャロルを糾弾する。

「しらを切るのもいい加減にしな。鍵を出さないのなら、彼には死んでもらうだけ」
「カオリ〜」
テツヤは何とも意気地のなさそうな悲鳴を上げている。

「カオリ、彼は私が助けよう」
二段仕込み仮面がカオリに耳打ちする。
「キャロルの注意を一瞬だけそらせれば、それでいい」
「わかった。あの年増に一撃食らわせればいいのね」
キャロルの偉そうな態度に腹が立ってきたカオリははき捨てるようにつぶやいた。

「あったまきた!やっつけてやるから!秘は碑にて碑立つ碑也!溜家秘伝、全醤五巻、土の巻、碑醤油!!」
カオリは自らの醤油を地面にまく。すると、どこからともなく、小さな地響きが聞こえてきた。

「これは…!?」
警戒するキャロル。地響きが徐々に大きくなり、醤油プールの水面も揺れだした。その揺れがひときわ大きくなったとき、キャロルの足元の土が、いや、醤油が石碑のように立ち上がり、キャロルのアゴにクリーンヒットした!

「グハッ」
痛烈な一撃をくらいながらも、しかし、かろうじて踏みとどまったキャロルは飛醤油でテツヤを吊していたロープを切断する。

「しまった!」
カオリが叫ぶ。

「うわあぁぁぁぁぁ」
テツヤは情けない声をあげて、鉄扉をも溶かすサルサ・デ・マイスに落下する。
あたりに上がる醤油しぶき!テツヤの運命は!


 
「沸騰!醤油マフィアの甘い罠!…その7」

「ひどいよー」
テツヤは醤油まみれになって、醤油プールから出てきた。

「これは…」
怪訝そうな表情を浮かべるキャロル

「全ての液体を中性にする緩衝醤油。間に合ったようだな」
いつのまにかプールのところに来ていた二段仕込み仮面が呟く。

「ふ…味な真似を…だが、もう覚えた!早速使わせてもらうよ!」
キャロルは先ほどのカオリと同じように醤油を地面にまく。

「まさか…碑醤油を…」
青ざめるカオリ。
「私にコピーできない醤油などない!さぁ!鍵を渡すんだ!」
地響きが坑道に響き渡る。

「まずい!みんな走って!!」
危機を感じたカオリが叫ぶ。

カオリと二段仕込み仮面が走り出す。その時、洞窟の壁、床、天井などからたくさんの碑醤油が突き出してきた。
「うわっーー」
かろうじて碑醤油を避けるカオリ、二段仕込み仮面も軽やかに碑醤油をかわしながら進む。

しかし、醤油まみれのテツヤは足下が滑ってあやしい。
次々と迫り来る碑醤油に激突し、鈍い音が何度も響く。
「げふぅ…」
テツヤの身体はパチンコの玉のように、碑醤油にはじかれ、ぼろぼろになっていった。
「カオリィ……」

「……ごめんなさい…!」
薄れ行くテツヤの声に、カオリはちょっとすまないなとも思いつつ、逃げるのに精一杯だった。
「くっ。まさか自分の醤油に苦しめられるなんて」

やがてカオリ達は洞窟の最奥部にたどり着いた。
口端から血を流したキャロルが鬼気迫る表情で迫ってくる。

キャロルに追い詰められていくカオリと二段仕込み仮面!二人の運命は!


 
「沸騰!醤油マフィアの甘い罠!…その8」

キャロルはカオリの碑醤油をコピーして操り、カオリと二段仕込み仮面を坑道の奥深くへと追い詰めた。
「さぁ、もう小細工はなしだ。醤油の鍵を渡してもらおうか。私は絶対に醤油の聖地に行かなくちゃならない。」
キャロルは2人ににじり寄る。

「なぜ、そんなにまで醤油の鍵にこだわるの?醤油の聖地に何があるって言うの」
キャロルの気迫に押されるカオリ。

「問答無用!リオ・デ・ラ・サルサ!!」
叫ぶとキャロルの背後から大量の醤油が奔流となってカオリらの方に押し寄せる。
カオリ、二段仕込み仮面の2人は腰を低く落とし、醤油の流れから身を守る。やがて醤油はひき、足首ほどの高さの醤油が残った。

「まずい!カオリ!これにつかまりたまえ!!」
何かに気がついたように、二段仕込み仮面はくさびのようなものを胸ポケットから取り出すと、天井に向かってそれを放り、天井からぶら下がる格好となった。
わけも分からずとりあえず二段仕込み仮面の足につかまってぶら下がるカオリ。

「サルサ エレクトリニーカ!!」
ちょうどカオリが二段仕込み仮面に捕まったとき、醤油の液面に火花が散った。キャロルが醤油に高圧電流を流したのだ。

「もう…こんなの醤油じゃない!」
カオリは震えながらつぶやく

「うまく逃げたね。これならどうだい?硬醤油!」
ぶら下がり、身動きがとれない二段仕込み仮面に醤油のつぶてが襲い掛かる。

「奥義 逆二段王!!」
二段仕込み仮面は左手を突き出す。そこから放たれる逆醤油律動により醤油としての力を失っ硬醤油は二段仕込み仮面に届くことなく地面へと崩れ落ちた。

「硬醤油!?ヨハンの醤油じゃないの!」
かつてカオリと世界醤油選手権決勝を争ったフィンランド代表、ヨハン・カクネンの硬醤油。その硬さはダイヤモンドすら凌駕すると言う。
カオリはかつてのライバルの醤油がキャロルの手によって作り出されたことに驚愕する。

「どうして?どうやって!?」
「私にコピーできない醤油はないのさ…私は今までに数多くの醤油をコピーしてきた…」
キャロルはさらに硬醤油を放ち、二人がぶら下がるくさびに打ち込んだ。くさびが天上から外れ、二人は再び醤油の中に落ちた。

「でもねぇ!カオリ!アンタの醤油はそん中でも最高だよ!」
キャロルは足元の醤油に神経を集中させている。この状態で碑醤油をくりだされたら二人の命はない。

その時、二段仕込み仮面は恐るべきことを口にした!
「カオリ…私に向けて飛醤油を撃て!すぐに!」
「どうして???」
「早くしろ!二人ともやられてしまうぞ!」
「わかった!行くよ!溜家秘伝、飛醤油!」

カオリは二段仕込み仮面に飛醤油を発射する。二段仕込み仮面は迫り来る飛醤油に右手をかざし叫ぶ!
「背布由寺奥義、二段王!!」

二段仕込み仮面の力により、爆発的に加速された飛醤油がキャロルを襲う

「くっ。スクリーンソイソース」
とっさにキャロルは、醤油の薄膜を前方に張る。
カオリらの飛醤油はその薄膜により勢いをそがれたが、キャロルの体に命中する。
「ウギャァァアァ!」
キャロルの悲鳴がこだまする。

「こんなことで、こんなことで負けるわけにはいかないんだ。アンタ邪魔だよ!バブリーソイソース」
またもキャロルの新しい醤油が解き放たれる。
シャボン玉のような醤油が二段仕込み仮面に向かって放出される。

「ぐわっ」
虚をつかれた二段仕込み仮面はその醤油の泡にあがらえず、巨大な醤油のシャボン玉に閉じこめられてしまった。
「あぁっ!二段仕込みさん!」
カオリは悲痛な声をあげる。

「こいつさえいなければ、私は勝てる。さぁ、もう貴方に勝ち目はないわ。」
キャロルは勝ち誇りカオリに詰めよる

────私の醤油がコピーされちゃうなんて…二段仕込みさんも捕まって…もう…勝てない
絶望したカオリはその場にへたり込んでしまった。目にあきらめの表情が浮かぶ。

気合いを入れるキャロル。キャロルの拳は醤油色のオーラに包まれる。
「古代中国醤油秘伝『醤油拳』。見せてあげるわ」
キャロルの拳がカオリの足下の岩を砕く。強烈な破壊力だ。

────悔しい…私に…もっと醤油力があれば!あの時の醤王みたいな…!
カオリは目をつぶり、振るえてうずくまった。

「これで終わりだ! 醤油拳!」
再びキャロルの拳がうなりをあげる。

その時、カオリの周囲から炎が上がった。炎は一瞬のうちに床に撒かれた醤油を焦がし黒煙をあげ、坑道は香ばしさで包まれる。
突如巻き起こった黒煙のためにキャロルは目標を見失い、拳は壁にめり込む。
煙がおさまったとき、カオリと二段仕込み仮面の姿は消えていた!

二人は一体どこへ?


 
「沸騰!醤油マフィアの甘い罠!…その9」

 カオリを覆った謎の炎はその多大な熱量で周囲全てを燃やしつくした。二段仕込み仮面を覆っていた醤油の膜も燃え、あたりの岩盤すら溶かした。

 自由になった二段仕込み仮面は溶けた岩肌の中から縦穴を見つけ、その縦穴にカオリをつれ飛びこんだったのだった。

カオリと二段仕込み仮面はダストシュートのような長い縦穴の中を通って、下まで落下した。

「いたたたた・・・」

 そこはコンクリート剥き出しの薄暗い部屋で、病院のようにいくつかのベッドが並んでいる。 ベッドは全て弱った人が横たわっていた。その中に、カオリが知っている男がいた。男の名はヨハン・カンクネン。

 かつてカオリと世界醤油選手権の決勝戦を戦ったフィンランドの近代醤油士だ。頬がやせこけ、呼吸も弱々しい。とてもかつて世界に名をはせたアスリートの姿とは思えない。

「ヨハン…」
カオリがヨハンに近づいたとき背後から聞き覚えのある声がした。

「カオリ!」
その声は落とし穴に落ちたはずのサムヤムの声だった。

「何でサムヤムがここへ?」
「穴に落ちたらこの部屋だったんだよ。カオリも落ちたのか?」
「違うわよ。キャロルとか言う危ないのに追われて…あー悔しい!」

「姉さんが…また…」
いつのまにか入り口に少女が立っていた。褐色の肌、意思のある力強い瞳を持ちながら、どこか線が細く、今にも倒れそうな雰囲気を持つ少女だった。

「この子がオイラを助けてくれたんだよ!」
サムヤムは何故か誇らしげに少女を紹介する。

「あなたは…?」
カオリは怪訝そうな顔でたずねる。
わずかに長い沈黙。少女は自らの名を語った。

「私はパロマ…パロマ・ロドリゲス。キャロルは私の姉です…」
少女はやっとそれだけ言うと、さもすまなそうにうつむいてしまった。

わずかな沈黙を破って、落下音が部屋に鳴り響く
カオリ達が落ちてきた縦穴からキャロルが降りてきたのだ。

「てこずらせてくれるじゃないか…カオリ…」
キャロルはカオリ達ににじり寄る。
そこにパロマが割って入った。

「姉さん!もうやめて!」
「パロミータ!」
妹パロマを目の前にして初めてキャロルが動揺する。
二段仕込み仮面はこの瞬間を見逃さなかった。

「サムヤム!ライジングサン・ナンプラーだ!!」
二段仕込み仮面はサムヤムにそう命じると、パロマの目を押さえ、壁際へと避難させる。

「え?あぁぁぁよくわからないけど…えい!」
サムヤムはよくわからないなりに陽昇魚醤のキャップを開ける。

「うわぁぁあ!」
突然の閃光にたじろぐキャロル。

「いまだ!カオリ!」
「任せておいて!飛と碑の醤油!」
二段仕込み仮面の指示が早いかカオリは今までの鬱憤を晴らすかのように飛醤油と碑醤油をキャロルに叩き込む。

「うぎゃああああああ!」
さしものキャロルも閃光に目の眩んでは避けることができない。
カオリとサムヤムのコンビネーションの前にキャロルは屈した。


 
「沸騰!醤油マフィアの甘い罠!…その10」

「姉がこんなになったのは、私のせいなんです・・・」
パロマは弱弱しい声で語り始めた。

自分が不治の病に冒されていること。キャロルがあらゆる病を治す醤油の噂を聞きつけ、 キッチョーアン・アメリカに入社したこと。キャロルはその天性の才能により、キッチョーアン・アメリカでも特別な地位を築きあげていたと言う。

「ある日、姉が傷だらけで家に帰って来ました。小さなビンを見せて、これで私の病気も治る…と…姉はそのビンをオールゼロと呼んでいました」
「オールゼロ…!」
カオリはかつて聞いたその菌の名前に驚く。

オールゼロ…それは、かつてキッチョーアンアメリカに存在したと言う万能の醤油菌。カオリ達は既に死に絶えてしまったと聞かされていたが…パロマの話によるとキャロルはそのオールゼロを使うことのできる数少ない醤油士で、オールゼロからコピー醤油を作り出すことに成功したのだという。

 そして、オールゼロによる醤油が治癒効果をもつことを知ったキャロルは研究所に残るわずかなオールゼロを全て持ち出した…

 オールゼロによって作り出された治癒醤油によって、パロマの症状は改善した。だが、快癒にまでは至らなかったという。

「オールゼロって治癒の醤油にもなるの?」
「なるだろう。オールゼロによって宇宙醤油も作れると聞く…宇宙醤油効果が医療に応用可能であることは想像に難くない」
カオリの疑問に二段仕込み仮面が応える。

「でも、オールゼロはほんのわずかでした。もっと量があれば、私の病も完治する…そう考えた姉はさらなるオールゼロを手に入れるため、醤油の聖地に行くと言い出しました。」

「なるほど…それが彼女が聖地を目指した理由か…」

「姉は、まずチュキカマタにいた醤油の鍵の守護者から鍵を奪い、あちこちの街で麻薬性のある醤油を売りさばき、そのお金でこの鉱山に醤油プラントを建設しました。そしてコピー醤油を使い、全ての醤油の鍵をこの地に集めるとつもりだったようです…」

「あんなインチキ技があればそれもできるよねー。ま、私にはかなわなかったけど」
ギリギリで勝ったカオリが強がって言う。

「そうですね…でも、コピーも万能ではないんですよ。カオリさん。制約があるんです」
パロマはかすかな微笑を浮かべてカオリに答える。

「制約?」
カオリが驚いた声を上げる。

「一つはコピーする醤油に触れること。もう一つはオリジナル醤油の使い手の近くにいること…その2つを守らないとコピー醤油は使えないのです」

「そうか!ここにいる醤油士たちは…!」
二段仕込み仮面は驚いてベッドを見渡す。そう、ここに横たわっている醤油士は全てキャロルにその技を奪われたものたち。そして彼らはキャロルが自在にコピー醤油の力を発揮すべく囚われていたのだった。奪った技を自由に使えるキャロルにとっての無敵の空間。それがこの醤油要塞パロマなのだった。

「姉は、チュキカマタに鍵があるという情報をわざと流し、この坑道につぎつぎと醤油士を誘い込み、力をつけていきました。そして囚われる人たちもどんどん増え…私は、こんな、こんなつらい思いをしてまで元気にならなくてもよかった…この人たちにも…姉にもつらい思いをさせてしまった…」
そういうとパロマは一筋の涙を流した。

パロマは自らの病が悲劇を生み出したという罪の意識から、囚われた醤油士たちの介抱に当たっていたのだと言う。

「なるほど…彼女が警察署ですぐにカオリを倒さなかったのはそういうわけか…」
二段仕込み仮面はひとりごちた。
「なんで?」
「キャロルはできるだけカオリの醤油をコピーしておきたかったのさ。自分に有利なこの醤油要塞で、カオリの醤油をコピーし尽くす。で、鍵を奪って、カオリをここに幽閉するつもりだったんだろう。」
「うへぇぇえ」
さしものカオリもキャロルの企みにゾッとした。

「これを姉さんに」
パロマは小さな醤油ビンを取り出した。
「残っていた治癒の醤油です。これで姉さんの傷を癒します」

サムヤムがキャロルを担ぐ。パロマが寝かされたキャロルの口に醤油を注ぐ。

「パロミータ…」
キャロルは目覚め、弱々しくうめく。

「姉さん。もうこんなことはやめましょう。このままでは新たな悲しみの醤油を生み出すだけ。
昔の…優しかった姉さんに戻って」

「…」
キャロルはとまどいながらパロマを見ている。

「もう、私は良いんです。私の命がつきてもそれは運命。私は姉さんと安らかに暮らせればそれが幸せ…」
確かにパロマは今までも止めてきた、だがこうしてキャロルの戦いの場にいてまで止めることはなかった。キャロルは迷う。

カオリ達3人はキャロルを説得するパロマをじっと見ている。
「それに姉さんでなくても、ほら、この人達ならきっと醤油の聖地にもたどり着けるわ」
「もちろんっ。私なら鍵集めも醤油の聖地も軽い軽い。オールゼロなんていくらでも持ってきてあげるって」
話をあわせて安請け合いするカオリ。

カオリの能天気なまでの気楽さにキャロルの表情がふっと和らいだ。
「ああ、そうだね。アンタならいけそうだ」

笑みを浮かべるとキャロルは醤油鍵をカオリの足下に放った。乾いた金属音が鳴り響く。
「私はどうかしてたかもしれない。鍵は渡すよ。だから、パロマのために…」
「任せといてよ」
言うが早いか、カオリは鍵を拾い上げる。

「カオリさん。姉さんの分もお願いします。」
パロマがちょこんと頭を下げる。

「だーいじょうぶ。ねぇ。サムヤム、二段仕込みさん?」
「おう!まかせておきなって!」
サムヤムも話をあわせる。だが、何故か二段仕込み仮面の姿はなく、二段仕込み仮面が立っていた場所に醤油桶があるだけだった。

「あれ?二段仕込み仮面は?」カオリがたずねる
「へ?さっきまでここにいたのにな?」

「ん〜。ま。いいか。で、キャロルさん次の醤油の鍵のありかは知ってるの??」

「イギリス…第六の鍵は醤油円卓の騎士達が守護している」
「円卓の騎士?」
「やばい連中の集まりだって聞いている。気をつけるんだね。」
「わかった。パロマちゃんのためにもがんばるよ。じゃ!またね!」
晴れやかな笑顔を浮かべてカオリはきびすを返し、部屋を出て行こうとする。

「カオリ!」
部屋を出て行こうとするカオリにキャロルは呼びかける
「忠告だ!デヴィッドに気をつけな!デヴィッド=キッチョーアン…アイツは危険だ!」

「デヴィッドが?どうして?」
「…いずれわかる。醤油に…飲まれるなよ」

こうしてカオリは第5の鍵を手に入れ、チュキカマタ鉱山を後にした。

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サンディアゴ空港のロビーでデヴィッドはキッチョーアンアメリカ本社に電話連絡を入れていた
「…そうだ…あの炎…真なる緋醤油の片鱗と見て間違いないだろう。そして次は聖杯…計画は順調だ…」

そこに、遠くからカオリとサムヤムがかけてくる。
その姿を見ると、電話を切り、デヴィッドは笑みを浮かべて二人を出迎えた。
「二人とも無事だったかい?」
「うん、ほら第5の鍵も手に入れたよ。キャロルさんって人が持っていた」
「ほう」
「いろんな醤油を使う人ですごく強かったんだよ〜」
「へぇ、それは私も見てみたかったな」
「…それとキャロルさんが…」
カオリの頭にキャロルの忠告がよぎる。
「なんだ?」
「…ううん、なんでもない。」
カオリは忠告を振り払うように、頭を振った。
「それより、次の鍵はイギリスだって。とっとと行きましょう」
「イギリスかい?了解。いつでも出発OKだ」
「じゃ、出発〜っ!」

カオリの元気いい声がロビーに響く。しかし、その声には一抹の不安の色が漂っていた。
デヴィッドの野望とは一体…!?


五の鍵〜醤油マフィア・キャロル篇(完)

 

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