天才醤油少女カオリ
■ストーリー

第3部 聖地探索編
  四の鍵〜タイ醤油十六戦士+ソイビーンベレー襲撃編

 結局、タイ醤油十六戦士ってなんだったんでしょうね。


「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その1」

アメリカ合衆国バージニア州ラングレー。
暗く冷たい会議室で二人の男がヘリコプターの落ちる映像を見つめている。
新宿駅でデヴィッドによって落とされたデルタフォースの映像だ。
「ステイツの威信はソイ・ソースにまみれた…」
憎憎しげにつぶやくその細身の男はCIA長官ハリス・ケストラー。

「これだけの戦力を投入して、ポポフを捕獲できないばかりか醤油のために部隊は全滅…」
長官は怒りを抑えきれず、立ち上がった。ケストラーCIA長官は大の醤油嫌いで知られている。

「残念な話だが、それでも我々は醤油の力を欲している。強力な局地戦闘力を持つ宇宙醤油兵士の有効性は論ずるまでもない…ポポフや…君の部隊の功績をみれば明らかだ…」
「そんな安い世辞を言いたくて呼びつけたのか?我々とて第一種にはかなわんよ。」
中年の軍人は不快感をにじませた。歴戦の経験を思わせる屈強な肉体を持つその軍人こそは特殊部隊ソイビーンベレーを束ねるバーンズ少佐。体のそこかしこから醤油の匂いがする。

「落ち着きたまえバーンズ少佐。醤油にはまだ君の知らぬ力が隠されている。これを見たまえ。」
画面は古い映像に切り替わる。
映し出されたのは旧式の核爆弾。それに白衣の男が黒い液体をかけている。

「1970年ネバダの核実験場に一人の男が現れ、実験用の核爆弾に謎の液体をかけ、去っていった。液体をかけられたその核弾頭はいかなる方法をもっても爆発しなかった。核の専門家は全員首を傾げ、『あの液体が核反応そのものを抑制したとしか考えられない』と結論づけた。」

画面は白衣の男のアップに切り替わる。
「この男こそ、当時のNASA生物基盤研究所SSS部門部門長イノリ・コバイツスキー。核爆弾にかけていた液体こそ、他ならぬ「醤油」だ。」
「ほぅ。醤油は対核兵器として有効だというわけか…」
バーンズ少佐は右眉毛を上げ、興味深そうに聞いている。

「そうだ。だが、その事実に恐怖した軍の核戦略部門はこの実験をあらゆる手段をもって隠蔽した。我が組織がこの情報を入手できたのはごく最近のことだ…」

「全くバカなことをしてくれたものだ」
長官は嘲笑を浮かべ、席に座りなおした。

「冷戦構造が無益な拮抗を続けている現在、核均衡を崩せる醤油は恐るべき戦略兵器となるだろう。ソ連の核サイロにこっそり醤油をかけていくだけで冷戦構造は一変する!SDI計画のSをSoySauseのSに置き換えてもいいくらいだ!」
長官は笑みを抑えきれなかった。

「だが、この秘密は長く歴史の闇に葬られてすぎてきたため、その詳細は不明だ。全ての真実を知るコバイツスキー博士も既にソ連に渡り、他界している…「コバイツスキーの遺産」がソ連に存在するとの情報もあるが、定かではない…」

「しかし、実のところ、わが国にもまた「コバイツスキーの遺産」が眠っている…そう、コバイツスキーの研究データを全て受け継ぐ、彼の実子、イノリ・フォックス・ジュニア!」

画面には醤油トライデントの一人、イノリ・フォックス・ジュニアの温和な顔が映し出される。

「我々はイノリ・フォックス・ジュニアがこの会社にブレーンとなっているとの情報をつかんだ。」
画面に醤油工場の映像が映し出される。

「これは…キッチョーアン・アメリカ!」バーンズ少佐が驚きの声をあげる。

「そう。我々は『コバイツスキーの遺産』を手に入れるべく、キッチョーアンアメリカ中央研究所を襲撃し、イノリ・フォックス・ジュニアの身柄を拘束する。また、同時刻にハッキングをしかけ、『コバイツスキーの遺産』全データを奪取する…だが、残念なことに我々には突き立てる牙が無い…」

「私の部隊がその牙というわけか…」

「そう作戦コード"プロメテウス"…実現のためには君たちの力が必要だ…」

「"プロメテウス"…やつらにパンドラでも送り返されるのか?」

「大事なのは『火』なのだよ。少佐…現在、キッチョーアンアメリカの総帥デヴィッド・キッチョーアンはタイに向かっており不在だ…今、この瞬間がまたとないチャンスなのだよ…」

「ふふふふ…了解した。できるなら、ヤツの息子を血祭りに上げたかったが…まぁいい…こんな機会はまたとない…我が部隊の帽子、全て奴らの醤油で染めて見せる…」

「フフフフ…ブンゴ!ベトナムでの借り、返させてもらう!!」
米軍最強の特殊部隊「ソイビーンベレー」がキッチョーアンアメリカに襲いかかる!


 
「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その2」

一方、タマビシオ・ワンでタイに到着し、キッチョーアン・タイのヘリで醤油十六戦士の本拠地に向かうカオリとデヴィッド。
機中、カオリはデヴィッドに質問する。

「ねぇ?タイの醤油ってどんなの?」
「魚を使ったナンプラーが多いな。しかし、十六戦士の醤油は未知数だ。あまり情報が無いのだが、ポポフや君の醤油のように飛ぶものもあると聞く…さて、そろそろ彼らの本拠地だ。あの寺院がそうだ。」
「うわーきれーい!」
カオリは顔をドアを開けて眼下の寺院の美しさに感嘆の声をあげる。ごそごそなにかをやっていたかと思うと、バックから何かのビンを出して中身を下にまいた。

「何をやっているんだ?」
「へへっ、ちょっとね。」
カオリはにっこりと笑った。

ヘリは広い場所を見つけて着陸する。
そこには十数人の男女が倒れていた。全員意識を失っているようだ。

「こ…これは?」デヴィッドが驚きの声をあげる。
「あー、これが十六戦士だったんだねぇ」カオリは少しがっかりした感じでそう言った。
カオリは一番偉そうな人物の懐を探り、鍵を取り出した。
「さーて、第4の鍵ゲット!早く片付いたねぇ」

「いったい何故…?」
「さっきヘリから醤油をまいたでしょ?あれこそ溜家秘伝『毒醤油』!これでみんな3ヶ月は意識不明だよ!」
「な…なんでそんなことを」
「だって、16人と戦うなんて面倒じゃない。」
カオリの暴挙に唖然とするデヴィッド。

「鍵を返せ!」
寺院に少年の声が鳴り響く。
少年がもの陰から現れた。

「チャナンヤ姉さん…タナーパットさん…よくも…みんなを!」
「君は…?」身構えるデヴィッド
「タイ醤油十六戦士サムヤム!貴様らを許さない!」
「ふーん。たまに『毒醤油』に耐性がある人間がいるって聞いたことはあるけど…かかってきな!叩き潰してあげる!」
残酷にも挑発するカオリ。

「姉さんの仇!くらえ!陽昇魚醤(ライジングサンナンプラー)!」
サムヤム少年が傍らの樽の蓋を開けると、樽から圧倒的な光があふれだした。
「…こ…この光は?」
目を細めるデヴィッド。しかし、まぶしくて樽を正視出来ない。恐るべきことにサムヤムの魚醤そのものが光を放っているのだ!液面が激しく明滅する。

「アユタヤの奇蹟と呼ばれたこの光!何者にも止められない!」

ゴンッ!

サムヤムが高らかに宣言したその時、カオリは樽を蹴り倒して陽昇魚醤を地面にぶちまけてしまった。周囲を照らしていた光が見る見る薄れていく。

「アァッ!」サムヤムが悲痛な叫び声をあげる。

「こんなの単に光っているだけじゃない。怖くも何ともないよ。」
カオリは呆れたようにつぶやくと、無情にも醤油ビンをサムヤムの頭に振り下ろした。
鈍い音がしてサムヤムは気絶した。


 

「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その3」

深夜、キッチョーアンアメリカ・コントロールルームに警報が鳴り響く。
残業で残っていたS'S隊長リトルエンジェル・バーバラがセンサーコンソールをチェックする…
「南プラントに障害…爆発物反応あり…また醤油狙いのテロリストね…」

バーバラはうんざりしたようにS'S隊員に連絡する。
「マイケル!チェザーレ!出動を要請します。南プラントにテロリスト進入。すみやかに排除しなさい」

バーバラは命令を出した後、ため息をついて椅子に座りなおすと、日ごろの疲れが出てきたのか、ウトウトと仮眠についてしまった。

マスタードのマイケルが馬に乗って爆発現場に急行する。金髪碧眼に無精髭。無造作に結んだ後ろ髪が風になびく。そして、腰にはたくさんのアメリカンマスタードが揺れている。日ごろからキッチョーアンアメリカのプラントに滞在している彼はこの手のトラブルには慣れっこなのだ。

炎上するプラントの近くでマイケルは侵入者の気配を感じ、馬を止め、警告を発した。

「ここはキッチョーアンアメリカの敷地だ!至急立ち去れ!」

侵入者は間違いなく武装しているだろう。しかし、そのような武装はマイケルの超絶マスタードには何の意味も無い。彼我の力量差を思えばこそ、警告する方がフェアだとマイケルは考えていたのである。

返答は銃弾で来た。馬の足元に着弾し馬がのけぞる。そして銃弾の一発はマイケルに向かった。
「マスタードウォール!」

マスタードは薄い壁となりマイケルを覆う。銃弾はそのマスタードによって軌道を変え、あさっての方向に飛んでいった。銃弾との摩擦熱で熱せられ焦げたマスタードの匂いが周囲に立ち込める。
「俺に銃は通用しねぇ!最後の警告だ!敷地から立ち去れ!」

「なるほど…流石はマスタードのマイケル…久しぶりだな…」
物陰から出てきた大男は明らかに軍人であり、異常なほどの逆三角形の体躯をしていた。腕は赤黒く、その筋肉は鋭角な面から構成されていた。そして腕の表面は何かに濡れている。

「…ジャック!」
旧知の仲なのか動揺するマイケル。

「今はソイソースアーム・ジャックだ」
軍人はそうつぶやくとボクシングの構えをとった。

「うれしぃぜぇ。お前相手にこれが試せるとはよぉ」
ジャックの腕に緊張が走る。

「ソイソースッ…!!ナックル!!」

ソイソースアーム・ジャックは大ぶりなストレートを放つ。

マイケルはかろうじて身をかわし、ソイソースアーム・ジャックの拳は特別醸造と書かれたプラントを直撃した。
轟音と共に、高さ30mはあるプラントが傾く。プラントの台座部に風穴が開いてしまったのだ。張り巡らされた高圧ケーブルが断線し、周囲に火花が散る。

「…その力、SSS-effect!」
「そうだ…俺の拳は醤油に濡れている…」
「死ぬぞ!」
「俺は魂を醤油に売ったのさ…」
「ならば…お前の醤油…からし醤油にしてやる!」
マイケルは顔をこわばらせ、ジャックに対峙する。

「できるならな…!」
ソイソースアーム・ジャックは再び構える。

「ソイソースッ…ナックル!」
脅威の一撃がマイケルに再び放たれる。

「マスタードウォール!」
マイケルの腰のマスタードが生き物のように動き、分厚い壁となった。ソイソースアーム・ジャックの拳とマスタードウォールが激突する。マイケル渾身のマスタードウォール。

だが、ソイソースアーム・ジャックの拳はマイケルのマスタードを薄紙のように貫き、マイケルを直撃した。

「グフゥッ!」
マイケルは吹き飛ばされ、うめき声をあげる。

「マスタードってなぁ、貧弱だなぁ」
勝利を確信し、うずくまるマイケルににじり寄るソイソースアーム・ジャック。

「死ね!マイケル!」
ソイソースアーム・ジャックが止めを刺そうと拳を振りかざしたその瞬間、ジャックの顔に鮮血がほとばしった!


 

「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その4」

「これは…ケチャップ?」
そう、ジャックの顔にほとばしった鮮血は正にトマトケチャップであった。
見れば、そこに横たわっているはずのマイケルの姿は無かった。
「運のいいやつめ…」

ソイソースアーム・ジャックはケチャップをぬぐうと右手を上げた、プラントの陰から数十名の特殊部隊員が姿をあらわす。全員が、宇宙醤油により強化された宇宙醤油兵士達だ。醤油色の帽子が怪しく光る。

「ジャック隊、キッチョーアン中央研究所を中心に散開、主要プラントを破壊せよ!」
ジャックは部隊に命令を出すと、自らも破壊活動におもむくべく、駆け出していった。
恐るべき宇宙醤油強化兵士達がキッチョーアンアメリカのプラントを襲う!

一方、マイケルはケチャップのチェザーレのバイクに乗せられていた。
「ったく。あンたがここまでやられるたぁ。今日びのテロリストは怖ぇえなぁ!?」
チェザーレは赤い長髪をなびかせながら、マイケルに問いかける。
「…やつらは…ソイビーンベレー…」
かろうじてそれだけを言うとマイケルは気絶した。

「軍か!?」 チェザーレは大慌てでバーバラに連絡をとる。
「バーバラ!バーバラ!」

チェザーレのエマージェンシーコールでようやく仮眠から目覚めるバーバラ。
「まずい!マイケルがやられた!敵はソイビーンベレー!」
「なんですって!?」

バーバラは慌ててキッチョーアンプラントの自動防衛システムを作動させる。

が、まるで動作しない!

キッチョーアンアメリカの全てをコントロールするSHOWYOUがハッキングをうけているのだ!

軍による攻撃とハッキング両方からのアタックに衝撃を受けるバーバラ。わずかなうたたねが、状況の悪化を招いてしまった。ましてや相手はスピード勝負のプロ。

 本物のソイビーンベレーなのだろうか?本物だとして、最強部隊と名高いソイビーンベレーが何の目的で?敵はアメリカそのものなのか?軍部の独走なのか?様々な憶測がバーバラの脳中に渦巻く。

バーバラが混乱しているその最中、新たなエマージェンシーコールが鳴り響く。

「バーバラ!北プラントが何者かに襲われているマヨ!」
いつもは陽気なマヨネーズ・ザ・オーヴァーファットが金切り声を上げている。

プラントの南北から攻撃を受け、中枢のスーパーコンピュータSHOWYOUもハッキングを受けるキッチョーアンアメリカ!絶体絶命のこの状況をバーバラはどう打開するのか!?


 

「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その5」

「S'S全員出動!一般職員の避難を最優先に!マイケルは職員と一緒に退避!職員の安全を確認後、チェザーレは南プラントの敵を迎撃!オーヴァーファットとアリゴは北プラントの敵を迎撃!全ての調味料の使用を許可します!」
バーバラは精一杯の命令を出し、自らはSHOWYOUハッキングに対抗するべく、コンソールに向かった。

一方、CIA地下にある特殊情報戦略室…

二人の男が無数のコンピューターに向っている。一人は伝説のハッカー、ナイト・ブラウン。もう一人はソイビーンベレーの隊員、ソイソースブレイン・ポロック。
 ハッカー・ブラウンはやせぎすな体に小さな丸めがねというステロタイプな風貌。丸めがねの右レンズにはひびが入り、それをセロハンテープでとめている。それに対して、ソイソースブレイン・ポロックはいかにも不気味だ。延髄から無数のコードが伸び、頭髪のまるでない頭には血管が浮き出、眼は醤油色に染まっている。

「なぁ。あんた、軍人だろ?なんでそんな不気味なカッコウしているんだ?」
「我は脳を武器とする軍人…そこらへんの駒とは違う…姿形など我の頭脳を包む肉に過ぎない」
ポロックは醤油色に染まった目でギョロリとブラウンを見つめる。ポロックは宇宙醤油効果により頭脳の演算速度を高め、コンピューターと脳を直結できる手術を施された特殊な宇宙醤油強化兵士だ。

「判った。正直、あんたに見つめられるのはゾッとする。あんたはあんたの仕事をしてくれ。俺はジュニアとかいうやつの居所を突き止めるだけだ。」
「世界最速のスーパーコンピュータ…SHOWYOUの防壁を破るには普通の人間ではかなわぬ。だが、我の高速演算能力をもってすればたやすい…」

ポロックは凄まじい演算能力をもってSHOWYOUに攻撃を仕掛ける!

「な…なんて速さなの!!」
管制室のバーバラは通常では考えられないほどの迅速なアタックに焦っていた。初動に自分のミスがあったため焦り様はひときわだ。

そうするうちにもプラントでの戦闘状況が伝わってくる。さしものS'Sもあまりにも多い侵入者に苦戦を強いられているのだ。

「デヴィッド…!」
バーバラは祈るような気持ちでつぶやいた。


 

「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その6」

 チェザーレはマイケルを医務室に預け、バイクで南プラントへ向かっていた。その道中、そこかしこのプラントが破壊されていた。

「クソッ。やりたい放題やりやがって…」

プラントの上部から疾走するチェザーレを狙うソイビーンベレー隊員がいた。宇宙醤油で強化した肉体により、照準はピクリとも動かない。兵士は冷徹に引き金を引く。銃弾を直撃し、バイクもろとも転倒するチェザーレ。血の海が広がる。

兵士は狙撃の成果に喜び小さなガッツポーズをする。だが、その背後にはチェザーレの姿が!
「バカな…あの血は?」
「残念だったな。あれは新鮮なトマトケチャップさ。」
チェザーレは銃を兵士に向け引き金を引く。銃口から一条のケチャップが発射され、兵士の顔に飛び散って、視界を奪う!

「うわっ!」
兵士はよろけるが、かろうじてプラントに踏みとどまる。

「ははは。よくばりだね。トマトもいるかい?」
チェザーレはそう言うと懐からトマトを取り出し、兵士にぶつけた。
「うわーっ」
投げつけられたトマトで平衡を失いプラントから転落するソイビーンベレー隊員。

チェザーレはソイビーンベレー隊員の双眼鏡を取り出し、プラントを見回す。そこかしこで火の手が上がっている。
「クソッ!敵の数が多すぎる!このままじゃぁ…キッチョーアンが滅ぼされちまう…!」

一方、北プラントではマヨネーズ・ザ・オーヴァーファットが苦戦していた。

「早すぎて見えないマヨ!」

プラントの陰の間をすばやく移動する影こそは宇宙醤油により足を強化した宇宙醤油兵士ソイソースレッグ・ホーク!

鳥のような風貌のホークはオーヴァーファットが投げつけるマヨネーズをことごとく避け、オーヴァーファットに近づいてゆく。そしてホークの背後からはソイビーンベレーが弾幕をはる。

「近寄るなマヨ!マヨネーズ・メガウェーブ!」
オーヴァーファットの口から多量のマヨネーズが細かい振動をしながら湧き出、津波のようにソイビーンベレー達に襲いかかる。

ホークはマヨネーズを避け、地面を蹴り宙を舞う。空中に浮かぶホークの口をめがけ液体が飛ぶ。

「酸っぱい!」
そのすっぱさに驚くソイソースレッグ・ホーク。口に入ってきたのは酢だ。

「だが、この酸っぱさの陰にある深いコク…何者だ!」
「このビンテージバルサミコ酢の味がわかるとはアメリカ人も捨てたものではありませんね。私はバルサミコのアリゴ…!お見知りおきを…!」

研究所の屋上にたたずむ美しい男。
彼こそは酢に3次元概念をもたらした男、バルサミコのアリゴ!

ソイビーンベレー最速の男をアリゴは停めることができるのか!?


 

「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その7」

 「あなたのように体を鍛え、宙を舞う人にこそ、我が酢を飲んでいただきたいものです。酢は人類最古の調味料とも言われています。その中にあって我がバルサミコ酢こそは最高の酢。それを味わう喜び…そしてその深い味わい故の苦悩…」

「もう、どこかにいっちゃったマヨ!」
アリゴの長演説の最中にホークは中央研究所に向かって去っていってしまった。

「ふむ。あの連中は破壊ではなく、別の目的を与えられた部隊のようですね。南プラントの部隊とは役目が違うようだ…もっと足止めしておくべきでしたね。ははは。」アリゴは冷静に状況を分析した。

「そんな事言っても、もう遅いマヨ!」

CIA地下特殊情報戦略室…
「我が部隊が南北プラントともにキッチョーアン防衛線を突破…SHOWYOU陥落も間近だ…ジュニアの居場所は突き止められたか?」
ソイビーンブレイン・ポロックがハッカー・ブラウンに尋ねる。

「やはり…ジュニアは中央研究所新棟…地下SHOWYOUルームにいる。だが彼からの反撃がまるでないのは不自然だ…」
ハッカー・ブラウンが首をかしげる。

「我の演算速度に恐れを成したのであろう。人では我に立ち向かえぬ…5…4…3…2…1…ゼロ」
ついにキッチョーアンアメリカ中枢コンピュータSHOWYOUは陥落した!

「デヴィッド…ごめんなさい…」
バーバラは嘆息した。
既に目の前のコンソールすらも敵に操られてしまっている。スーパーコンピュータSHOWYOUは敵の手に落ちたのだ。そしてすぐ外にはソイソースアーム・ジャックの部隊が迫っている。バーバラの命も危うい。

キッチョーアンアメリカ上空を飛ぶヘリの中、バーンズ少佐は燃え盛るプラントを見て高笑いをする。想像以上の戦果に笑いを抑えきれないのだ。

「クククク。ブンゴよ。この燃え盛るキッチョーアン!貴様に見せたかったよ!クハッーハッハッハ!!!」

 調味料特務部隊S'Sでも最強部隊ソイビーンベレーを停められず、プラントを破壊され、中枢たる中央研究所も囲まれ、SHOWYOUも陥落したキッチョーアンアメリカ!

キッチョーアンアメリカの運命は!?


 

「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その8」

SHOWYOU陥落と同時刻、キッチョーアンアメリカ中央研究所新棟の前にソイソースアーム・ジャックが率いるソイビーンベレー・ジャック隊が集結した。

「ホーク隊到着までにイノリ・フォックス・ジュニアのいるSHOWYOUまでの通路を確保する!敵の戦力は壊滅状態だがぬかるな!」

 ジャック隊は天井の高い研究所の搬入口に歩を進めてゆく。侵入するソイビーンベレー達の前に一人の男が現れた。黒いタキシードを着た陰鬱な男。

彼こそ醤油トライデント・ジョージ・ガロア!爆発したような白髪がゆらいでいる。

「舞台が始まる前は闇に限る。」

ガロアがそうつぶやくと周囲が闇に包まれた。あらゆる音が吸収される完全な闇。

ジャックは突然の闇にたじろぎながらもノクトビジョンをかける。しかし、ガロアの姿が見えるだけで他にはなにも見えなかった。先ほどまで目の前にあった搬入コンテナや、搬送機器、自分の隊員の姿も闇に包まれ、見ることができない。自分の腕すらも見えなかった。

「無駄だ。光、赤外線、電波…全ての電磁波を遮断した。」
ガロアが冷徹につぶやく。ジャックは驚いて通信機を確認する。確かにホーク隊の状況が伝わってきていない。

「ソイソースッ…ナックル!!」
ガロアをこの闇の元凶と見たジャックは、己の拳をガロアに打ち込む。いかなる人間であろうと絶命必至の拳がガロアの胸に深深と埋まった。

するとジャックの拳が埋まった箇所から闇が裂け、周囲の風景が幕をあげるように現れてきた。

そして、ガロアの姿は拳から数メートル先にあった。

「!?」
ジャックはとまどいながらも第2撃をガロアに打ち込む。

「ソイソースッ…ストレートッ!」
拳は確かにガロアに当たった。今度は周囲の風景が裂け、幕を上がるように別の風景が現れた!そして、今度はガロアの姿は2階の通路上にあった。

「こ…これは…!?」
超スピードとも幻覚ともつかぬ不可思議な現象にジャックは混乱した。

「あなたの相手は私ではありませんよ」
ガロアはそう言うと、階下の分厚いシャッターを指差した。

そこに立つのは包帯の跡も生々しいマスタードのマイケル!
「決着をつけようぜ…弟よ!」


 

「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その9」

「あの夏のフェスティバル…俺たち兄弟ははじめてからし醤油を味わい…俺はマスタードを選び、お前は醤油を選んだ…」
マスタードのマイケルが懐かしそうに語る。

「マイケル…マスタードを選んだお前が醤油会社の犬に成り下がっているとはな…せめて負け犬なりの誇りを持て!」
ソイソースアーム・ジャックは再びソイソースナックルの構えをとる。

「お前も醤油戦士なら調味料で語れ…」
手負いのマイケルもジャックと同じ構えを取る。

「なめるな兄貴!ソイソースッ…ナックル!」
プラントをもなぎ倒す拳がマイケルに向かって放たれる。

「マスタードッ…ナックル!!!」
そして、マイケルもまた拳にマスタードを集めパンチを放つ。

ガッ!

ジャックの拳とマイケルの拳が激突し、衝突音が鳴り響く。拳は宙で合わさったまま拮抗して動かない。

「何故だ!!」
ジャックは驚きをもってマイケルの拳を見つめる。手負いのマイケルが自分と同じ力を持っているとは考えがたいことだった。

マイケルはかすかに笑みを浮かべ、腕に力を入れる。
すると腕のマスタードがじわじわとジャックの腕に巻きついていった。

「うわぁぁぁ!」
ジャックの腕の宇宙醤油がマスタードに吸い取られてゆく。

「お前を狂わせた宇宙醤油…からし醤油にしてやる!!」
マイケルのマスタードはさらなる勢いで宇宙醤油を吸い取ってゆく。

「うぉぉぉぉぉぉ!離せ!」
ジャックがマイケル腕を振り払う。だが、その腕からは既に醤油が抜けていた。足元の床をからし醤油がぬらしている。

「クソッ!よくも!」
ジャックは体勢を立て直そうとする。

だが、マイケルの方が早かった。
「マスタード・アンド・ソイソース・スパイラル!」
宇宙醤油とマスタードが交じり合った絶妙のからし醤油が生き物のように螺旋を描き、ジャックを直撃する。

「グハァッ!」
ジャックは宙に舞、壁に激突し、気絶した。

マイケルは気絶するジャックに近づき、介抱した。
目を覚ますジャック。

「何故俺は負けたんだ…」
ジャックは不服そうに言う。
マイケルは黙ってジャックにからし醤油を飲ませた。

「うまいな…辛味の中にも複雑なうまみがある…」
からし醤油の意外なうまさに驚くジャック。

「世の中は、醤油かマスタードじゃあない。醤油とマスタードが合わさることで素晴らしい新たなる調味料にもなる…それを知らなかったのがおまえの敗因さ」
マイケルはジャックをそう諭した。

「兄貴…」

からしと醤油に引き裂かれた兄弟が、今ひとつのからし醤油によって和解を果たす…

感動的なシーンに、ソイビーンベレー隊員たちがみな涙を流し、拍手をしている。
熱狂的な拍手がキッチョーアンアメリカ中央研究所にこだまする。


 

「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その10」

マイケルとジャックの和解から3分。

ソイビーンベレー隊員たちはなおも拍手することを止めない。それどころかなおも涙を流し、大声を張り上げ感動を表明する。隊員たちは宇宙醤油効果により向上した筋力で拍手しつづけたため、皆、手が裂け、血を流している。ある隊員など腕の骨が折れ、それでも拍手を止めていない。

「お…お前たち…どうしたんだ?」
当惑するジャック。

「感動しているのですよ。あなた達兄弟の和解に…」

隊員の幾人かは涙を流しすぎ顔が干からびはじめている。

「だが…いくらなんでも、これは…異常だ…」

「全ては演出の力。私は演出家ジョージ・ガロア。あらゆる演出をつかさどるもの…」

ガロアが腕を上げると、隊員たちの熱狂はより凄まじくなった。足を床にたたきつけ、骨折するもの。折れた腕をもぎり拍手を続けるもの。自らの至上の感動を表明するために自らの頭蓋を拳銃で打ち抜くもの。隊員たちは見る間に物言わぬ肉塊と化していった。ジャック隊隊員達の立っていた場所は血と涙と肉に濡れていた…

「お…お前たち…!!」
ジャックが血相を変えて駆け寄る。

「熱狂の産む惨劇…古典的な演出ですが、これもまたいいものでしょう…」
ガロアは残酷にもつぶやいた。

「あ…悪魔め!」
ジャックがガロアに向かう。

「訂正してもらおう。舞台において演出家は神だ…と」
ガロアはわずかに怒りを見せ、ジャックの額に手を当てた。
数瞬の後、ガロアの姿はジャックもろとも消えてしまった!

(注)この箇所の描写は連載時・コミックス版のものです。テレビアニメ時には残酷すぎると言うことで、描写が変更されています。
(アニメ版)
隊員たちが感動し、手を叩き続け、ジャックの呼びかけにも答えなくなる→ジャックとガロアが消え去ります。


 

「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その11

「おかしい…SHOWYOUのデータベースが見当たらない…」
SHOWYOUを掌握したはずのソイビーンブレイン・ポロックが焦りを見せる。

ハッカー・ブラウンはSHOWYOUを解析するうちに違和感に気づく。
「この構成…まずい!これは全てダミーだ!俺たちは最初からSHOWYOUに侵入できていない!逆ハックされているぞ!」

「なにをバカな…この通り、こちらの全ての機能は正常だ。」
既にポロックはSHOWYOUをなめきっており、まるで信じない。

「違う!正常に見せられているだけだ!見ろ!この一帯のマシンは既に落とされている!こちらのマシンの動作を全てSHOWYOUがエミュレートしているんだ!」

「バカな…そんな演算速度をもったマシンが…グワッ!」
「どうした!?」
「我の脳自身がハッキングを受けている…速い…速すぎる…!」
ポロックの頭の血管がぴくぴくと動いている。

キッチョーアンアメリカ・地下SHOWYOUルーム。
薄暗い部屋の中、モニタを前に一人の男がつぶやいていた。
「エミュレートにSHOWYOU防壁処理を0.03%も費やさせるとはなかなか良いアタックでした…敢闘賞に父さんの遺産の片鱗を見せてあげましょう。」

彼こそキッチョーアンアメリカ電算部門統括・イノリ・フォックス・ジュニア!

「グガガガガガガ!!!」
ポロックは痙攣し始めた。ブラウンは慌ててポロックの端末をモニタリングする。
「これは…膨大なデータが送り込まれている?このパターンは一体…?」

「グワアアアアアアアアッツ…」
ソイビーンブレイン・ポロックは苦しそうにうめく。痙攣はより激しくなり、醤油色に染まった不気味な目も今は何も見ていない。

ビキッ!

ポロックの目の前のモニターにひびが入る。

バシャーン!

モニターがひび割れ醤油が溢れ出した!
醤油の奔流がポロックに襲い掛かる。!

「げぼばばっばばば…ゲフッ!」
醤油まみれになるポロック。

「グワーッ!」
モニターからなおも醤油が噴出し、醤油の海に溺れる。崩れ落ちたポロックの脊髄から伸びたケーブルからも醤油が噴出している。

「何なんだ!!これは!物理的にありえない!」

「醤油の構成情報を抽出し、電気信号に変換する情報醤油変換…父さん…これが父さんの求めていた純粋醤油だよ…」
ジュニアは自分の父を思いつぶやいた。

一方、CIA地下情報戦略室。ハッカーブラウンは信じられない出来事を前に焦っていた。
「な…なんなんだ…俺たちの敵は…!!」

ブラウンは慌ててジュニア自身のプロフィールをチェックしていた。
「こ…これは…!!」
ブラウンはそのプロフィールに驚愕し、天を仰いだ。

「醤油…俺なんかが関わって良い世界ではなかった…」


 

「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その12」

 ソイソースアーム・ジャック率いるジャック隊が中央研究所に侵入したのと同時刻。ソイソースレッグ・ホーク率いるホーク隊もまた中央研究所に近づいていた。

「ジャック隊が中央研究所に潜入!我々のターゲットはイノリ・フォックス・ジュニアのみだ!身柄確保の後、速やかに離脱する!」
隊員に指示を下すソイソースレッグ・ホーク。

ホーク隊は宇宙醤油で脚部を重点的に強化した宇宙醤油兵士で構成されており、その類稀な機動力により、数々の奪還・強奪作戦を成功させてきた部隊だ。

 その栄光ある部隊にほころびが生じた。中央研究所から700メートルの地点で最後尾の隊員が進路から外れだしたのだ。

「!?…連絡あるまで一時待機。警戒を怠るな!」
異変を感じたソイソースレッグ・ホークは緊急停止し、隊員が離脱した地点へと引き返した。

「この匂いは?」
そこには既に隊員の姿は無かった。ただ、なにかとてつもなく良い匂いが倉庫の方から漂ってくる。その匂いは効しがたく、ホークは倉庫の内部に歩を進めた。そこには離脱したはずの隊員が転がっている?

 

「アイヤー。軍人さんまたきたネ。」
そこには何故かマクドナルドのカウンターがあり、東洋人らしき恰幅の良い老人が、マクドナルド店員のコスチュームを着て立っていた。なんとも似合っていない。

「S'S(ダブルエス)か!?」
ホークは銃を構え、東洋人に狙いをつける。

しかし、東洋人の老人は臆することも無く手元のトレイをホークに見せ、薦める。

「チキンマックナゲットはいかがでしょうか?」
奇妙な老人のマニュアル通りのトーク。だが、そのチキンマックナゲットはとてつもなくうまそうに見えた。

 何故だ!?マクドナルドはこんな変な老人を雇うのか?そもそも何故、キッチョーアンのプラントマクドナルドのカウンターがあるのか?おかしい。なにかがおかしい!

ホークが戸惑っている間に、誰かがそのチキンマックナゲットに飛びついた。ホークが待機を命じたはずの隊員だ。隊員はチキンマックナゲットをほおばるとビクリと動き、次のマックナゲットに手を伸ばした。また一つ、また一つ…スピードはどんどんと上がってゆく…そして隊員たちはものすごい速さでナゲットを口に運び、隊員達はチキンマックナゲットの奪い合いを始めたのだ!いつもは冷静なはずのギルバート副隊長も先を争ってチキンマックナゲットに手を伸ばしている。

東洋人の老人はその光景をさも嬉しそうに眺めている。

「総員退却!待機ポイントまで引き返せ!」
ホークは必死で命令を下すが、誰一人として命令に従おうとはしない。チキンマックナゲットをむさぼるばかりだ。危険を感じ、再び老人に銃を構えるホークの足元に、奪い合いから漏れたチキンマックナゲットが一つ転がってきた。

<このチキンマックナゲットは危険だ!>

脳内に響く警告とは裏腹に、ホークはチキンマックナゲットに手を伸ばし、食べてしまった!

「!!!!!!!!!!!!!!!!」
うまい。うますぎる!ただ平凡な鶏肉を平凡に揚げただけの料理が何故こんなにうまいのか?いや、うまいなどと言う言葉では表しきれない。正に超越旨みだ!ホークもまた旨みに突き動かされ、次のチキンマックナゲットを捜し求めていた。

「軍人さんはどうも欲張りアルネ」
老人はうんざりぎみで背後からマクドナルドの紙袋を山ほど取り出した。

あの紙袋の中にうまいハンバーガーがある!そう直感した隊員たちはわれ先に紙袋の奪い合いを始めた。そして、隊長のホークもまたその高機動力で紙袋を奪取した。世界最速の機動力が無駄に使われた瞬間だ。

ホークは紙袋を破く手間も惜しいのか、紙袋のままチーズバーガーやマックフライポテトにがっつき始めた。

「紙が…紙が邪魔なんだよぉぉぉ!」
ホークは喜びとも悲しみともつかぬ表情を浮かべながら、食べつづけていた。

十数分後、そこには文字通り腹が裂けるまで食べつづけたホーク隊隊員たちの瀕死の姿があった。彼らは瀕死になってもなお、マックフライポテトを求めつづけていた。

「フォフォフォ…マクドナルド・ウー支店はいつも大盛況ネ」
東洋人の老人は嬉しそうにつぶやくと瀕死のホーク隊を放っておいて倉庫を後にした。

その老人こそ、醤油トライデント・料理部門統括ウー老師!


 

「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その13」

ソイビーンベレー部隊長バーンズ少佐は焦っていた。

ハッキング成功の報の後、ソイビーンベレー・ジャック隊が通信を絶ち、続いてホーク隊も通信を絶った。いや、ホーク隊へ通信は通じるのだが「うまい!」だの「うますぎる!」だの意味不明の叫び声しか帰ってこない。そして、現在、SHOWYOUをハッキングしたはずのソイビーンブレイン・ポロックもまた応答不能になっている。

「くそっ。作戦はほとんど成功だったはずだ…!一体…何故!」

「あなたが間違ったからだ…」
誰もいないはずの後部座席に傷ついたソイソースアーム・ジャックと見知らぬ男が乗っていた。

「誰だ!?」

「ガロア…ジョージ・ガロア…」
ガロアがそう答える前にバーンズはガロアに殴りかかっていた。ソイソースアーム・ジャックに勝るとも劣らぬパンチ。だが、そのパンチはガロアの数十センチ前で止まりピクリとも動かない。

「…!?」

バーンズ少佐はソイソースアーム・ジャックの腕力、ソイソースブレーン・ポロックの頭脳・ソイソースレッグ・ホークの脚力を備えた強力な宇宙醤油改造人間。しかし、それでもバーンズの攻撃はガロアに当たらない。それどころか体が一切動かせないのだ。

「???…お前は一体…!?」

「ジョージ・ガロア…演出家だ。」
ガロアは落ち着いた口調で答えるが、目は怒りに燃えている。いつものガロアからは考えられないことだ。

「あ…あのガロアか?考えたことが物理力・政治力・軍事力全てを超越して実現するという!?あなたが何故こんなところに!?」

「貴方は私の大事なものを奪った…」
ガロアはバーンズの言葉を無視して、バーンズ少佐の額に手を当てる。

「一体、何のことだ?」
身に全く覚えの無いバーンズ少佐は首をひねる。

「貴方達が侵入の際に破壊したプラント…あれは私が初めて企画した醤油…あれこそ『ガロア印特別醸造醤油』の製造プラント!!!!」
怒りを露にするガロア。その圧力に周囲の気温も上がったようだ。

「貴方だったら、プラントくらいすぐに元に戻せるでしょう!!?」
パニックになりながらもかろうじて丁寧な口調で自己弁護をするバーンズ少佐。

「黙れ!この世の枠組みから外れろ!イアン・バーンズ!」
ガロアが怒りをこめて叫ぶ。

「うわぁぁぁぁ…」
ガロアはいかなる技を使ったのか。いつのまにかバーンズ少佐はヘリから放り出され空中を落下していた。

「これくらいなら…いける!」
バーンズ少佐はアメリカ軍最強の宇宙醤油兵士。その身体能力を発揮すれば、この程度の落下距離なら十分に耐えられる!そう判断して着陸の体勢を整える。落下速度がどんどん上がる。だが、いつまでたっても地面は近づかない!

「な…なんだ!??」
戸惑う間にも速度は上がり周囲の風景は暗くなっていく。バーンズ少佐はガロアによって無限に落下する空間に閉じ込められてしまったのだ。

「ガロア印の醤油を汚した罪…死如きでは償えぬ!堕ちろ!」
ガロアはヘリの機中で毒づいた。

そして、バーンズ少佐は無限に落下する空間で、落ちつづけ、ついに発狂してしまった。


 

「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その14」

 CIA長官室にハッカー・ブラウンが怒鳴り込む。

「長官室にアポイントメントも無く来るとはさぞかし良いニュースなんだろうな?」
ケストラー長官は突然の闖入者にあからさまな不快感を示している。

「とりすましているんじゃねぇ!あんたがハッキングを命じたSHOWYOU!あれは軍の全予測システムの兄弟機だ!俺たちを殺すつもりか!」
ブラウンはケストラー長官の胸ぐらをつかんでわめき散らす。

「あれから10年は経っている…技術進歩では我々に分があると判断したのだが…離したまえ」
長官は心苦しそうに自分の判断を思いかえす。

「あンたみたいな素人にはわからねぇだろうが、こいつらは特別なんだよ!おそらく奴等は…シリコンじゃない!処理速度はおそらく…数百エクサFLOPS以上!これがどういうことかわかるか!?」

「……!!!??」
ブラウンのあまりの剣幕にさしものケストラー長官も気圧される。

「こいつは40年は進んでいる!大体ジュニアってのもイノリ・フォックス・ジュニア!世界中のハッカーが束になってもかなわない怪物だ!!」
怒りが落ち着いたのか、ブラウンは長官を離し、脇に抱えてきた紙の束を投げ出す。

「そうでなくても、俺が調べた限り、あのキッチョーアンアメリカには後二人の怪物がいる。
一人はウー・シャオロン。Sサイズのマックフライポテト一つでフォークランド紛争を終結させた謎の中国人…もう一人は、想像したことが全て実現する20世紀最悪の演出家ジョージ・ガロア!こんな異常なやつらを、ソイビーンベレー如きで倒せるものか!」

長官はブラウンの資料に目を通し、声を失う。
「……ガ…ガロアに…ウー・シャオロン…!!!」

「あンたも知らなかったみたいだな…」
ブラウンはため息をつく。

長官は焦りながらバーンズ少佐に連絡を取ろうと無線機を取るが、通信はつながらない。既にバーンズ少佐も倒されてしまったのか。

「彼に会いたいなら会わせてあげますよ」

どこからともなく声がする。そして、長官室に衝突音が響き渡る。突如男が床に降ってきたのだ。しかし天井に穴はあいていない。男は長官室の空間に突如と現れ、凄まじい速度で床に衝突したのだ。

「バーンズッ!」
長官が叫ぶ。

突如として現れたその男はバーンズ少佐に間違いなかった。ソイビーンベレーの制服に汚れは無いが、口元はゆがみよだれにまみれている。うつろな目は彼が正気を失っていることを物語っていた。

「お会いできて光栄です。ケストラー長官。」
慇懃に頭を下げたその男は数分前までフロリダキッチョーアン工場にいたはずのジョージ・ガロア。

「ガロア…貴方がキッチョーアンにいたとは…」
長官は憎憎しげにつぶやく。

「長官…残念ですが、貴方の失脚は免れませんね…ですが、それを回避する方法が一つだけありますよ」

ガロアは長官に歩み寄り、耳元でそっとささやいた。
「ソイビーンベレーなどと言う部隊は存在しなかったのですよ。いままでも…そしてこれからも…」

それは正に悪魔のささやきだった。

「そうか…そうだな…」
ケストラー長官は夢遊病者のようにデスクにつくと一心不乱に隠蔽工作に取り掛かった。

「さて、この劇はここで幕です。Mr.ブラウン…ごきげんよう…」
ガロアはブラウンにそういって一礼をした。

「なぁ…アンタ、何故、俺を消さないんだ?」

「劇には良き観客が必要なのですよ…驚き、泣き、恐れ、感動してくれる観客が…」
そういい残してガロアは消え去ってしまった。


 

「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…その15」

「わかった。実被害が少なくて何よりだ。南特別醸造用プラントと貯蔵庫修理は早急に実施してくれ。」デヴィッドはタイの病院でバーバラの報告を国際電話で聞いていた。

「政府への抗議・賠償請求はどうしますか?」
バーバラが問いかける。

「こちらからはこれ以上何のアクションも起こさなくて良い。おそらく軍のどこかの独走だろうからな。黙っていた方がアドバンテージになるだろう。3人に礼を言ってくれ。」

「それが…ガロアが鬱に入ってしまいました。」

「またか…」

「『拙い演出をしてしまった。死にたい』といったまま、部屋から出てきません。今回の超常演出が気に入らなかったようです。」

「しばらくは出てこないだろう。その間に特別醸造プラントを立て直しておいた方が良さそうだ」

「了解しました」
デヴィッドはバーバラが電話を切るのを、確認してから電話を置き、サムヤムが眠っている病室へ向かった。

「カオリ。サムヤム君はどうだ?」
デヴィッドは病室の扉をあけるなり、サムヤムの様子を気遣うが既に回復したようで、あちこちをキョロキョロ見回している。

「大丈夫みたい。でも、あんまり動かない方がいいらしいよ。」
自分で殴ったくせに他人事のように言う無責任なカオリ。

「あ!前髪男!ここはどこだよ?みんなはどうした?」
サムヤムはデヴィッドにくってかかる。

「ここはキッチョーアン・タイ病院。他の15人は別の病室で治療を受けている。2ヶ月もすれば回復するそうだ。それから私は前髪男ではない。デヴィッド・キッチョーアンだ。」

「そうか。それならよかった。ありがとう前髪男。」

「デヴィッド・キッチョーアンだ。サムヤム君。君は第5の鍵の所在を知っているね?教えてくれないだろうか?」

「やだよ。お前みたいな前髪に。」

「鍵を集めるものに守護する者が負けた場合は、次の鍵の所在を教える。それが守護する者のおきてではなかったかね?」
デヴィッドは胸を張ってサムヤムを追い詰める。

「うっ…」

「君たちも気づいているだろうが、醤油合は既に始まっている。時間が無いのだよ」

「わかった。おいらも鍵集めに連れて行ってくれるのなら教えてあげるよ」

「いいだろう。で、第5の鍵は?」

「チュキカマタとか言うところにあるらしいよ。十六戦士になるときにタナーパットさんが教えてくれた。」

「チュキカマタ…南米…チリか!行くぞ!カオリ!」
言うが早いか、デヴィッドは病室の扉を開けて外へ向かった。カオリもそれに続く。

「あ、待ってよ。オイラも今行くからさ。」

「なんのことだい?」
デヴィッドはサムヤムに冷たい一瞥をくれると、無情にも病室のドアを締めた。


「強襲!最強部隊ソイビーンベレー!…完」


 

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