天才醤油少女カオリ

■ストーリー

第3部 聖地探索編
  序章〜キッチョーアン・アメリカ
醤油の聖地を目指し、世界に散らばる鍵を集める聖地探索編。
デヴィッドの野望とカオリのわがままが交錯する!

まずはキッチョーアンアメリカ編。
ようやくデヴィッド登場!早速のデヴィッド長口上(^_^;)


 
「慟哭!醤油は孤独なり!」

世界醤油選手権に優勝したカオリは、世界最大の食品会社キッチョーアン・アメリカのエグゼクティブ・フードプロデューサーとして招聘をうけ、キッチョーアン・アメリカの誇る空飛ぶ醤油蔵タマビシオ・ワンでアメリカへと旅だった。

だが、その機中でキッチョーアン・アメリカCEO(最高経営責任者)としてカオリを迎えたのは、かつて背布由寺で修行を共にしたライバル、デヴィッド・キッチョーアンであった。

「デヴィッド…どうしてここに…」
「私はキッチョーアンの最高責任者だからね。今回の大会は全てが私の計画だ」

かつて、デヴィッドに一度たりともかなわなかったカオリは、デヴィッドに醤油勝負を申し込む。だが、デヴィッドは「いいだろう。この男を倒せば、私との勝負、かなえよう。」

そう言って、馬に乗ってやってきた男を指し示した。

飛行機の中、馬に乗って現れた非常識な男、調味料特務機関S'S(ダブルエス)所属マスタードのマイケル。気持ちの整理もつかぬままカオリはマイケルと戦い、破れてしまう。そしてカオリはデヴィッドに醤油の決定的な弱点を宣告される。

「カオリ、醤油だけでは料理にならない。食材あっての醤油なのだ。
キミの醤油は何処までも孤独だ」

真実を知らされ、泣き叫ぶカオリ。その慟哭が空の醤油桶にこだまする



「壮大!キッチョーアン・アメリカ!」

タマビシオ・ワンはキッチョーアン・アメリカ、フロリダ工場に降り立った。マイケルに負け、デヴィッドに弱点を見抜かれ落ち込んでいたカオリであったが、その壮大な醤油工場を目の前にして悲壮感など吹き飛んでしまった。

地平線が見えるほどの広大な敷地を埋めつくす巨大プラント群、整然と動く無人醤油搬送ロボット、そのタンク一つ一つですらカオリが見たこともないような大きさ、そしてその環境は醤油に最適なようにコントロールされていた。そして、特殊醤油製造ラインの醤油は極めて高品質。はたして溜家の醤油ですら打ち勝てるかどうか…

そして地下11階地上25階の醤油研究所「ショウユ・ラボ」、そこではショウユ・トライデントなる世界最強の醤油プロダクト集団が醤油研究を日夜繰り返しているという。

思いもかけない高度な醤油工場を目の前にして興奮状態のカオリであったが、当初の目的を見失ってはいなかった。

「デヴィッド…キッチョーアン・アメリカの醤油の秘密。教えてくれない?」

カオリの唐突かつ身勝手な依頼にデヴィッドは快くこたえる。
「いいだろう。カオリ。それが君の目的なのだろうからね。」

果たして、キッチョーアン・アメリカの秘密とは!?



「意外!文殊桶・イン・アメリカ!」

ショウユ・ラボの最下層に向かう途中、デヴィッドはカオリに語りかける。

「ここの所員達は優秀だ…だがそれでも、アジアの数千年に及ぶ英知に立ち向かうには並大抵の事ではないのだよ…キッチョーアン・アメリカのトップ・シークレットを君に明かそう…」

エレベーターの扉が開く。ひんやりとした空気。最良の醤油蔵特有の冷気を感じてカオリは身構える。そこには見覚えのある醤油桶が。

「これは…!」
「そう、本家吉兆庵秘蔵の醤油桶”文殊桶”!
「でも、キッチョーアン・アメリカの醤油は吉兆庵のどの醤油とも違う!キッチョーアンアメリカが文殊桶を使っているはずはない!」
「その通り。文殊桶は優れた桶だがその菌にヴァリエーションがなさ過ぎてね大量生産には向かない。私専用のF1マシンといったところさ。」

その時、背後に長身の穏和な男が近づいてきた。
彼の名はイノリ・フォックス・ジュニア。ショウユ・トライデントの一角を占める世界最強のハッカーだ。

「ボス。準備ができたよ。ただしフル稼働は30分だ。それ以上は売り上げに響く」
「オーケー。ジュニア。だがこの30分はいずれ10億ドルになって跳ね返る。楽しみにしてな。」
デヴィッドは上機嫌でカオリの方を振り返る。
「カオリ、キッチョーアン・アメリカのトップシークレット「オールゼロ」を見せてあげよう。

果たして、オールゼロとは…!?


「万能!キッチョーアン・オールゼロ!」

デヴィッドが文殊桶格納庫の奥の扉を開けると、さらなる冷気が流れ込んできた。

最奥の広大な部屋。地下鉄の駅が3つは入りそうなほど巨大な白く冷たい空間には棚が整然と並び、全ての棚には1cm程度のカプセルが無数に並んでいた。

「これは…」
「キッチョーアンアメリカが保有する全ての菌だ…これらの菌には全て管理ナンバーがついている。例えば、ヒット作「キッチョーアン一番絞り醤油」のナンバーはS9-0357。「むらさきこいくち醤油」なら、G4-3456という具合に…これら全てを称してキッチョーアン菌と呼んでいる…」
「キッチョーアン菌…」

壁一面の小さなカプセル…これが全て菌だとすれば、キッチョーアン・アメリカの作りうる醤油はいかほどになるのか…その膨大さに思いを馳せるだけで、カオリはめまいを感じた。

「それだけではないキッチョーアン菌は世界中の発酵菌を内包する。例えば、溜家の菌であればJ4-9566から9898…」
「そんな!うちの菌は門外不出のはず!」
「我々は独自に溜家の菌すら作れるということだ。オールゼロの力があれば…カオリ!ここにある全ての菌は母なるオールゼロから生み出された菌なのだよ!無限のバリエーションを備え、作り手の意志すら反映する万能の菌!それがオールゼロだ!」

「そんな菌あるわけないじゃない!」
「だが、事実だ。最もその出自は私にもわからない。昔、ある科学者が持ち込んだ0.01gの結晶がその全てだ。我々はその菌にナンバー0-0000を与えた。それが全ての始まりだった…」

面倒くさい話が苦手なカオリはデヴィッドの長口上にイライラし始めていた


「没入!ショウユ・マトリクス!」

「だったら。さぁ、とっとと、そのオールゼロをちょうだいよ!」いきなり無茶を言うカオリ。

「残念ながら、もう、オールゼロは存在しない。少量しか存在せず、このドームの菌を生み出して死に絶えてしまった。だが、かろうじてオールゼロを体験することはできる。ジュニア!始めてくれ!」

ジュニアと呼ばれた長身の男が、ヘルメットのようなシステムをカオリに装着する。

「これは…」
「ショウユ再現システムSHOWYOU。君ほどの醤油士ならなんの違和感もなくショウユ・マトリクスに同調できるはずだ」

カオリの眼前にエレクトリカルな空間が広がる。コンピューターが生み出した醤油蔵だ。数瞬の感覚の寸断の後、カオリはマトリクスと同調し、目の前の醤油道具を手に取った。まるでホンモノのような手触りに驚くカオリ。いくつかの醤油づくりの手順を思い浮かべただけで、見る見る醤油ができていゆく。

「すごい…すこし考えただけで…」
「カオリ。ここでは時間は関係ない。醤油士の感性と能力を全て解き放てる空間!それが醤油マトリクスだ!」デヴィッドの声がどこからか響く。

そして、奥の空間から輝く、光の粒が出てきた。その一粒一粒が仮想オールゼロ。

初めての醤油マトリックスでカオリは如何なる醤油を作れるのか!?


「圧倒!ウロボロスソイソース!」

ショウユ・マトリクスにカオリは完全に同調し、オールゼロに思念をあわせると、次々と周囲の電子的な大豆や小麦が醤油へと姿を変える。

「す、凄い。この菌があればどんな醤油でもおもいのまま…」
有頂天になるカオリをデヴィッドの醤油が襲う

「だが、それでもこの醤油には勝てまい。カオリ!キッチョーアン総帥の力いまこそみせよう。まず『ペンタゴン』!」

その醤油は甘味、酸味、塩味、苦味、旨味の五大味覚全てを同等のバランスで備えた恐るべき醤油。そのバランスの良さにカオリはひるむ。だが、デヴィッドは攻撃の手をゆるめない。

醤油のもつ対比効果を極限まで高めた、サンセット・ソイ・ソース。海水を使用した海の香りがする醤油「リヴァイアサン・ソイ・ソース」口に含んでいる間に次々と味わいを変える「イリュージョン・ソイ・ソース」…そのどれもがカオリの数段上を行く醤油であった。

「君に高みを教えよう。我が最大醤油!ウロボロス・ソイ・ソース!」

ウロボロス・ソイ・ソースの旨味が醤油シミュレータ「SHOWYOU」の処理能力を超えたため、ショウユ・マトリクスは停止した。だが、停止するまでの数瞬。ウロボロスソイソースを味わったカオリは正に生と死の境目を彷徨ったのだ。その旨さによって。



「聖地!鍵を求めて!」

圧倒的な力量差で負けたカオリ。ようやくカオリが息を吹き返すしたカオリにデヴィッドは語りかける

「私がこのレベルに達したのは、オールゼロがあってこそだ。私はこのオールゼロを手にし、世界に広めたいのだ。世界は再び醤油を知ることになろう…もちろん、カオリ…気ににも…オールゼロさえあれば、君はまだまだ強くなれる。」

デビッドによれば、オールゼロはある科学者が醤油の聖地から持ち帰ったものだという。
ならば醤油の聖地にさえたどり着ければ奇跡の菌「オールゼロ」を手にすることができる!

醤油の聖地は、世界中の醤油士が守護するで封じられており、また、醤油の聖地の所在もその鍵を見つけることで自ずとわかるという。

「カオリ、君に提案がある。私と一緒に醤油の聖地を探さないか?それこそが世界醤油選手権を開いた意味でもあるのだが…」

その時、上の方から轟音が鳴り響いた!デヴィッドに緊急通信が入る

「ボス!何者かの攻撃です!プラントが!タマビシオ・ワンが…!」

ただならぬ状況にカオリとデヴィッドはすぐさま地上に向かう。


「襲来!サブソニック・ポポフ!」

地上にあがったカオリとデヴィッドが見た光景は恐るべきものだった、美麗と荘厳を誇ったプラントが火を噴き煙をあげている。

「これはいったい…?」

空飛ぶ醤油蔵タマビシオワンの傍らに一人の黒づくめの男が立っていた。男はタマビシオワンに飛び乗ると素手でタマビシオワンの主翼を曲げ始めた!恐るべき怪力だ。

「これは…SSS-effect!まさか…まだ生きていたのか!」

叫んで駆け寄ったデヴィッドに茶色い小片がかすめる。それは弾丸と化した醤油だった。黒ずくめの男がデヴィッドににじり寄る。

「SSS-Efectを知っているとはな!いかにも俺は最後の宇宙醤油兵士サブソニック・ポポフ!キッチョーアン!聖地の鍵の在処を教えてもらおうか!」

SSS-effect…宇宙空間に滞在した醤油には遺伝子レベルの肉体改造効果があり、これをSpeace soi source effect(宇宙醤油効果)と呼称する。宇宙醤油は神経速度の向上、筋組織の増強、知能の大幅な拡大をもたらすが寿命を縮めるなどの副作用が大きい。

「なぜ、聖地を目指す!」
「我が祖国は危機に瀕している…経済…軍事…全てが弱り切っている…だが、宇宙醤油兵士さえいれば、我が祖国の栄誉を取り戻せる!」
冷戦の天秤を醤油で傾けるつもりか!」
「宇宙醤油の力さえあれば天秤の存在すら葬れる。見ろ!亜音速醤油!」

サブソニック・ポポフから再び発射された弾丸のごとき醤油がカオリの額に命中した!崩れ落ちるカオリ。

「俺の醤油は亜音速!誰にも味わえない…」
「貴様!」
「くくく…殺してはいない。貴様に選択肢などない…さぁ答えろ鍵の在処を!」

突如として現れた宇宙醤油戦士サブソニック・ポポフ。カオリとデヴィッドの生死は!


「始動!聖地への旅」

デヴィッドが一歩身を引き、さらに詰め寄るポポフ。デヴィッドは観念したかのように呟いた。

「第一の鍵はトウキョー・シンジュク・ステーション…」

そのとき突如、馬の蹄の音が!アメリカンマスタードの使い手マイケルが現れた!

「マスタードウォール!」

彼がそう叫ぶと突如20mにも及ぶマスタードの壁が現れた。ポポフがマイケルに亜音速醤油を発射する。だが亜音速醤油はマスタードの壁に阻まれ、混ざり合い、ただのカラシ醤油になってしまった。

味な真似を…トーキョーの鍵は私がいただいく!さらばだ!キッチョーアン」

ポポフは自らの醤油に乗って西の空に消えていった。
デヴィッドは空に消えゆくポポフを見つめながら呟いた。

「よくやった。バーバラ、マイケル」

醤油ラボ地上25階キッチョーアンS'S調味料司令室で金髪の美女リトルエンジェル・バーバラが答える。

「でも、これでよかったの?ボス?何も鍵の在処までわざわざ教えなくても良かったんじゃない?」
「いや、これで良い。彼にも我々の計画にのってもらうことにしよう。そして、彼女にも…」

デヴィッドは気を失ったカオリを抱え上げる

「ほんとにそんな小娘が役に立つのかしら?」
バーバラが嫉妬混じりにデヴィッドを責める。

「あぁ…私は信じているよ…なによりも…人類には醤油が必要だ…」

デヴィッドが目を覚ましたカオリに起こった出来事を伝える。ポポフのこと。宇宙醤油効果のこと。彼が祖国のために聖地の鍵をねらう凶悪な醤油戦士であること。そして、第一の鍵が東京新宿駅にあること…それを聞いたカオリは思いもかけないことを言い出した。

「ふーん。聖地ってそんなにすごいんだ。じゃあ、私が見つけだして独り占めすんのもアリだよね。じゃっ!」

言うが早いか、ポポフの破壊活動の後処理に追われるデヴィッドを尻目にカオリは日本に向かっていった。

「ボス。彼女、本当に役に立つんですか?」とバーバラ。
デヴィッドは気まずいさを紛らわすように黙々と仕事をこなしていた。





第3部 序章・キッチョーアンアメリカ (了)

 


 

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