僕は将太だ。

僕は魚の死体を四角に切り取って、
植物の種の塊の上にのせる仕事をしている。

僕と同じ仕事をしている人は日本中にいる。

今日は日本中から魚の死体を切る人が集まる日だ。

周りに人がどんどん集まってくる。

みんな手に刃物を持っている。

みんな魚の死体を切り刻みたいのだろう。

魚の肉にざっくりと鋭利な刃物を突き立てたいのだろう。

魚の死体を刻んで酢飯の塊の上にのせたいのだろう。

魚の死体を切ることは辛いけど楽しい。
僕の切った魚の死体を食べて喜んでくれる人がいるからだ。

だから、僕は魚の死体を切り刻む。
周りが血だらけになるけど気になんかしてられない。
だって、死体からは血が出るものだから。

さっきから、大阪から来た坂田とかいう人が
馴れ馴れしく声をかけてくる。少しうるさい。

坂田とか言う人は柳刃包丁を見せびらかして自慢ばかりしている。

その柳刃包丁は磨り減り、ナイフのように小さくなってしまっている。

坂田と言う人は魚の死体の切りすぎで、
柳刃包丁が磨り減ってしまったのだと言う。

坂田は魚の死体を切って100円で売ると言う。
そして、魚の死体をコンベアの上に乗せてグルグルと回すと言う。
子供達のために。

グルグル回すと言う。

魚の死体を売りつけられる子供も可哀想な気がするけど。
100円なら、安いから、まぁいいかという気がする。

魚の死体を汚く食べるから子供は嫌いだ。
魚の死体のかすが散らばるのはよくない。

坂田はまだ包丁をぶらぶらさせている。

坂田は僕を切り刻むつもりではなのかもしれないな。
魚の死体に飽きて、僕の死体を切り刻んで、
酢飯の上に乗せるのかな。
僕の頬の肉を切り裂いて、酢飯の上に乗せるのかな。

僕は死体を切るのは好きだけど、
切られるのも、自分が死体になるのも嫌いだ。

瞳をスッパリと包丁で切られたら、
鼻に包丁を突きたてられて、鼻梁をぐりぐりとえぐられたら、
二の腕の皮膚を真皮からバリバリと剥がされたら、
僕は痛くて泣き叫んでしまう。助けて。

僕が心の中で悲鳴をあげているうちに
向こうから大きな魚の死体が板に乗っけられてやってきた。

赤い大きな魚の死体だ。

偉い人が何かをいっている。

この赤い大きな魚の死体を切り刻んで
酢飯の塊の上に乗っけろと言っているみたいだ。

だから僕は切り刻まないといけない。

僕だけじゃない坂田も他のみんなも
この大きくて赤い魚の死体を切り刻んで、
酢飯の塊の上に乗っけないといけない。

それが僕たちの仕事だから。

周りで歓声があがっている。
ここにいる人たちはみんな魚の死体を切るのが上手いから
みんな綺麗に魚の死体を切り刻むのを楽しみにしているのだ。

向こうに立っている大年寺三郎太が何か言っている。
「この魚はマンダイだ。」

そうか、この魚はマンダイというらしい。詳しいな。
あの人はどんな魚の死体のことでも知っているからな。
魚の死体が大好きなのだろう。
毎夜、魚の死体を股に挟んで性的恍惚を味わっているのだろう。

僕の前にマンダイの死体の一部が置かれた。

さっきまで生きていたはずの肉が、骨から剥がされて、
ただの赤いぶよぶよした物に なってしまっている。

死んでしまっているのだ。

僕は笑った。何かおかしくて笑ってしまった。
僕は笑いながらマンダイの死体に包丁を突きたてようとした。
上手くねらいが定まらない。
上手く切れない。

困ったな。笑っていると魚の死体は切れないのかな。
上手く魚の死体が切れないと、僕は僕でなくなってしまう。
僕が僕でなくなってしまうのはとても恐ろしいことだ。

ふと魚の死体をみてみる。
死体の表面が
脂でテラテラと光っている。
なぁんだ。死体の脂で刃が滑ってしまったのだ。

ならば、脂で滑らないように刃が
ギザギザした包丁を使えばいいのだ。

僕は包丁を砂利に突き立て、刃をギザギザにする。

これならば、しっかと包丁が食い込んで
死体が綺麗に切れる。

よかったな。
魚の死体が綺麗に切れて本当によかったな。

僕はホッとして、周りを見回してみる。
坂田も周りの奴らも、
魚の死体の脂が多いことに気づいていないみたいだ。

僕はおかしくて笑ってしまった。
脂が多いと死体は切りにくいのにな。

死体は綺麗に切れないとダメなのにな。
僕の中でおかしさが爆発して、笑いが止まらなくなってしまった。

脂が多いと死体は切りにくいのにな。
おかしいな。

僕は痙攣を起こすように笑ってしまった。

痙攣はいつまでも止まらなかった。

夜がきてもまだ笑いが止まらなかった。

星空の下、僕は喉が潰れるまで笑った。
おかしくておかしくて死にそうだった。

笑っているうちにもっとどんどんおかしくなってきた。

周りの人はそんな僕を不思議そうに見ていた。

それが僕の最後の記憶だ。

(了)

 

 

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