第一回 たこ焼き師 河嶋友良

たこ焼き師河嶋友良

 

 


河嶋友良up
河嶋友良(かわしま ともよし)
1970年5月23日埼玉県生まれ
「異端児」と忌み嫌われながら、
1992年発表の「バナナ」で
従来のたこ焼き観を根底から覆し、
以後、世界の頂点に君臨しつづける
天才のたこ焼き師
2000年国際たこ焼きフェスティバルで
新作「虚空」を発表し、
その磐石振りを 内外に示した。

たこ焼き

 「どんなときでも、自らの位置を変えない唯一の星。彼は正に"the polestar(極星)"ですよ」

 「極星」、河嶋友良を追いつづけてきた、アメリカのジャーナリスト、ロイ・ジョーンズは彼をこう呼ぶ。

 日本人なら誰もが知る「たこ焼き」。

 日本で生まれたこの小さな球体は世界を熱狂の渦に叩き込み、世界中に傑出したクリエーターを生んだ。

  アメリカの「病気持ち」ジャック・スタークス、「魔人」ジョン・ベル、イギリスの「破壊王」ブレンダン・イングル、そしてドイツの「白銀の帝王」クリストフ・ウィグマン。

 誰もがこれらのトップたこ焼きクリエーターの名前を聞いたことがあるだろう。だが、20世紀末の現在、たこ焼き界のトップのほとんどは欧米勢で占められている。その勢力図は、たこ焼きファンならずとも日本人には歯がゆいものだ。

 この構図は、柔道とよく似ている。かつては、発祥の地として絶対的な強さを誇りながらも、やがて、その地位を外国人勢が脅かすようになる…だが、たった一人で柔道王国の復権をもたらした、不世出の天才、山下泰裕がいたように、たこ焼き界にも不滅の天才、「極星」川島友良がいる。

 彼はその類まれな才気で世界の強豪達の上に君臨しつづけている。彼が現代たこ焼き界最高のカリスマであることに異論あるものは、まず、いないだろう。

――河嶋さんにとって、「たこ焼き」とはなんですか?

河嶋 いきなりつかみ所のない質問ですね(笑)
     でも、あえて言うなら「たこ焼きであるもの」が「たこ焼き」だと思いますよ。
     つかみ所のない答えで悪いですけど(笑)

――そのたこ焼き観はいつ頃完成されたのでしょうか?

河嶋 最初にたこ焼きを作ったときか…作る前でしょうね。
     たこ焼き観は変りませんよ。何しろ、僕は「極星」らしいですから(笑)

――「極星」と言う呼び名についてどう思いますか?

河嶋 あれはロイが言い出したことだからなぁ。
     スタークスみたいに「病気持ち」とか呼ばれるよりはいいけど(笑)
     あれは、かわいそうですよスタークスが(笑)
     「極星」はわりと気に入っている呼び名ですね。
     マスコミが使うのにも便利みたいですし。

――マスコミの取り上げ方は、やはり1992年の「バナナ」(※1)前後では違いますよね。

河嶋 確かにそうです。こっちとしてはやっていることは何も変りがないんですけどね。

――それだけ「バナナ」は強烈でした。

河嶋 よく言われるんですが、「バナナ」は決して画期的な作品でありません。歴史的必然の結晶ですよ。

――そうですか?

河嶋 80年代には五泉流などで、タコの代わりに「イカ」や「明太子」、「チーズ」などを入れた「変りタコ焼き」が台頭してきました。こうなると誰でも思いますよね。「タコが入っていないのに、たこ焼きって言うのか?」ってね。でも、「変りタコ焼き」はみんな喜んで食べた。

――私もわりと好きでした。チーズ入りのは特に。

河嶋 それだけみんなが支持してくれたわけです。そして、ここに重要な問題が含まれている。「たこ焼きにとってタコは必要条件ではない」ということ。

 「変りタコ焼きはたこが入っていない」「変りタコ焼きもまたたこ焼きである」よって、「たこ焼きにタコが入っていなくても良い」単純な三段論法の帰結です。

私はそこから更に踏み込んで考えた。たこ焼き界で聖域とされている「球」「焼」であることは果たして必要なのだろうか?と。結局、そのいずれも必要でなかったわけです。

――その想いが「バナナ」として現れた…と。

 

バナナ

(※1)バナナ(1992)…「蛸」「焼」「球」というたこ焼きの三大制約から解き放たれた衝撃の作品。無造作に刺さった爪楊枝だけが、かろうじて従来のたこ焼きを思わせる。河嶋の伝説はここから始まった。

河嶋 そうですね。繰り返しになりますが、評論家が言うような「革命」でも「飛躍」でもない、単なる必然ですよ。僕が作らなくても、誰かが作ったでしょう。もっとも、僕がいなければ数年後にはなったでしょうが(笑)

――発表当時の反発は相当なものだったのではないでしょうか。

河嶋 「こんなものはたこ焼きじゃない!ただのバナナだ!」ってね(笑) ですが、そんな事言ってももう遅かった。そんなことを言うなら、80年代の変りタコ焼きの時に流れを断ち切るべきだった。そもそも変りタコ焼きを推進した五泉流の人達まで反発するのだから始末に悪い(笑)

――国内の反発は未だに残っているようです、それに比べて海外では比較的柔軟に受け入れることができたようですが…

河嶋 それはそうですね。それと、やはり、海外の人のほうが「たこ焼きとは」という根源的な問いについて、真剣に考えていますよね。

――そうでしょうか?

河嶋 そりゃそうですよ。向こうの書店に「What's TAKOYAKI」ってタイトルの本が何冊あると思います?十数冊はありますよ。それに、たこ焼きの雑誌だっていくつもあるし、大体の書店にはたこ焼き専門のコーナーもある。日本では考えられないことでしょう。

――そうですね。たこ焼きコーナーは見たことがありません。

河嶋 それと、面白いことに海外ではたこ焼きは「フィロソフィー・ボール」なんて呼び方をしている。「ユニバーサル・ボール」とかね。つまり球体の中に思索なり宇宙なりを見ているわけですよ。残念ながら日本ではそのレベルまで到達していない。

――過激なタコヤキニストで知られる物理学者エドワード・ホプキンスは「我々の宇宙は一つのたこ焼きの中に存在している。」と主張しているようですが。

河嶋 この宇宙がたった一つのたこ焼きだったとしても、僕は驚きませんよ。
     むしろそうあってほしいと思いますね。

――日本ではこれだけたこ焼きが食べられていながら、世界に通用するトップたこ焼きクリエーターが育たないのは何故でしょうか?

河嶋 難しい問題ですね。ただ、やはり、昔からある食べ物だと思って、漫然と作りつづけていては、クリエイティブなたこ焼きは作れない。でも、最近の若手選手には世界に通用するものがありますよ。慶応の田口君が去年の全日本たこ焼きフォーラムで発表した「sphere」(※2)なんて、いいなぁと思いますよ。「球」を追求するあたり伝統派にもウケがいいかもしれない。彼も若いのにしたたかだよね(笑)

――ただ、田口選手はプロ入りを拒否しています。

河嶋 日本でたこ焼きクリエーターとしてやっていくのは厳しいですからね。それはわかっています。ですが、それだったら、世界に出れば良い。僕はその手助けだったら幾らでもやりますよ。

――日本たこ焼き協会が、小室哲也とつんくに、たこ焼きのプロデュースを依頼したというニュースもありますが。

河嶋 勘違いしているとしか思えないね。歌とたこ焼きはまるで違うものですよ。協会はそのことがわかっていない。オリコンで一位が取れたからと言って、良いたこ焼きが作れるわけではない。協会がこんなことを考えること自体、日本のたこ焼き界は末期的状況にありますね。

 

sphere

(※2)sphere(1999)巨大な鋼鉄球の中にタコを埋め込み、真球に磨いた田口選手(慶応)の代表作。ミクロン単位で磨き上げられたその精度は驚嘆に値する。

――何が問題なのでしょうか?

河嶋 僕が一番心配なのは、日本人がたこ焼きを愛する心を失いつつあるのではないかということです。田口君の場合も、たこ焼きを作る、作らない以前に職業として成り立つかを考えてしまっている。徒手空拳、たこ焼きを作っていこうとする気概に欠けています。田口君ほどの人ですら、たこ焼きへの愛を失っているのが残念でなりません。

――愛…ですか…

河嶋 言葉にすれば陳腐ですけどね。ですが、やはり、愛なくしてたこ焼きは作れません。日本人は自ら作りだしたたこ焼きを誇り、愛するべきですよ。たこ焼きを愛さない国なんて、滅んだって構わないと思いますよ。…いや、滅ぶべきですね。

虚空

(※3)虚空(2000)…刺さるべきたこ焼きが見当たらない。しかし、爪楊枝の切っ先は確かに虚空を貫いている。2000年国際たこ焼きフェスティバルグランプリ獲得。未来の古典を約束された作品といえるだろう。

――先日開催された国際たこ焼きフェスティバルでの「虚空」(※3)は素晴らしい作品でした。

河嶋 ありがとうございます。ただ、やはり、「虚空」も自分で納得の行くタコ焼きではありませんでした。あれでは満腹感は得られませんしね(笑)

――これから河嶋友良のたこ焼きはどこに向かうのでしょうか?

河嶋 「たこ焼き」の向かう先は「たこ焼き」が決めることです。僕が決めることではありません。ですが、僕なら誰よりも早く未来の「たこ焼き」をお見せすることができる。それだけの自信はありますよ。

―◆―

 彼はそう不敵に笑って、インタビューを締めくくった。彼はグランプリを獲得しても尚、その作品に満足していないという。そして、誰よりも先んじる自信があるという。

 自惚れともとれる強気で傲慢な発言。それは時として周囲の反発と混乱を招く。だが、彼の言葉に気負いは見えない。彼の眼前にはたこ焼きの未来がありありと見えているようだ。

 我々は、彼がもたらした未来のたこ焼きの前にして、困惑し、苛立ち、賞賛し、あるいは非難するしかできないでいる。彼のたこ焼きの周囲をただただグルグルと回ることしか出来ないでいる。インタビューを通してそのことを実感した。

希代のたこ焼き師・河嶋友良。彼はやはり「極星」なのだ。

壇 宗綱=文
text by Dan Munetsuna
矢口 孝=写真
photographs by Yaguchi Takashi
取材協力:オフィスカワシマ・WTA・日本たこ焼き協会

お題提供:「カリスマ」 KOZさん・「三段論法」猫田みかんさん
「小室哲也とつんく」なんちゃってさん・「バナナ」古賀 浩さん

たこ焼き食べ終わり
home