嘘書籍探訪
「卓越した心理療法家のための参考書」
    編・グレン・C・エレンホーゲン
論文に妄想に正当に邪道。
バラエティーに富むアカデミズム・パロディー

「真面目に馬鹿馬鹿しいことを言う」というのが笑いの基本の一つだ。「コボちゃん」のネタでも、池上遼一が描けばそれだけで変な方向に面白さが増す。そんな「真面目に馬鹿馬鹿しいことを書いた」効果がいかんなく発揮されているのが本書だ。

本書は、アメリカの心理学・精神医学の専門家(のうちの物好きが)の書いた心理学論文のパロディーで、目次には

 「死者の心理療法」
 「口唇期サディズムと菜食主義人格」
 「『星の王子さまの症例』に関する臨床的注釈」
 「ゲシュタルト療法における決定的瞬間」

となんとなくそれらしいタイトルが並ぶ。

嘘アカデミックはかの有名な「鼻行類」、アシモフの「チオチモリン」をはじめ、スタニワフ・レムのバクテリア未来学「エルンティク」、筒井康隆「ポスト構造主義による「一杯のかけそば」分析」等、数々の傑作が存在するが、どうもマニアックなうけを狙ったものも多く、正当な知識をもっていないと笑えなかったり、理解できなかったり、仮に笑えたりしても苦笑いになってしまうようなものも多
いのだが、本書はとっつきやすく素直に笑える。貴重な嘘アカデミックの書籍といえるだろう。

「死者の心理療法」では「現代の心理療法において、治療不可能な人間がいるということは、もはや葬り去るべき神話である…」と華々しく宣言し、「何故心理学者は死者を無視してきたのか」と
その怠慢をなじり、死者に対していかに心理療法を施すべきかを主張する。

「『星の王子様』に関する臨床的注釈」では、星の王子様が厳密な観察の結果、妄想型精神分裂病に分類されてしまう

また、北極に住み、太りすぎで年中笑っており、自分の持ち物を皆、人にやってしまうという問題を抱え、さらに年に一度しか働こうとしないニコラスなる人物の心理調査…「ニコラス・クラウス:心理測定における症例研究」はこんな感じだ。

◆結果データの考察
知能検査の結果から…(中略)普通は知能の成長に伴って成長する主要領域の間に、発達の不均衡があることが示唆されている。言語領域の問題は、検査者が形式的な質問をしても、ときたま「ホ、ホ、ホ」と叫ぶだけであったことに示されている…

どれも明快な嘘論文で無理やり納得させられてしまう。

また、固い論文のパロディーだけでなく、学生の「試験を受けなかったわけ」を集めた返答集や、中年期の不安を診断する「MMPI(改訂版):中年期不適応予測イヴェントリー」、新たな妄想を集めた「新しい改善された妄想」などのサクッと読める作品も面白い。

「新しい改善された妄想」は

・夜になると邪悪なるものが忍び寄ってきて、私のおへそにたまっているごみを取り除き、代わりにタピオカプディングを詰めていく。
・私が台所の掃除をしないのは、綿ぼこりの中でトリュフを育てているからである。
・私は並の生まれ方をしたのではない。ディズニー・スタジオによって作られたのである。
・私が箱からクリネックスを一枚だけ取り出そうとすると、ユーリ・アンドロポフが12枚余分に押し出してくる。

等のありがちといえばありがちだが、なかなかおもしろい妄想が集まっており、何気なく読むのには最適だ。

冒頭でも述べたがこの本は、心理学・精神医学の専門家(のうちの物好きが)とっておきのネタを持ち寄ったような感じのアンソロジーで、切り口も一様でなく、バラエティーに富んでおり、その質も高い。あまり知名度はないが、かなりオススメの一品である。

ちなみにこの出版元の「星和書店」は心理療法などではメジャーな書店だそうで、こういうところが出版しているというのがポイント高い。

ちなみにネット書店・イー・ショッピングブックスでは分類が「カウンセリング」になっており、これもポイントが高い。

この本を探すときには、本当に「心理学・心理療法」の棚を探さなければならないのだ。


書籍データ
書名 「卓越した心理療法家のための参考書」 
編・グレン・C・エレンホーゲン 訳・篠木 満
出版社 星和書店
ISBN: 4-7911-0165-0
販売価格 2400円(税別)

  嘘 度:★★★
  笑 度:★★★★★

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